2019年は世界の広範な地域で異常気象が報じられた。2019年は1850~1900年の平均気温に比べて1.1度高く、(非常に強いエルニーニョが影響した)2016年に次いで2番目に気温が高い年であり、世界気象機関は「このままでは今世紀末には3~5度上昇する」と警告している。もっとも気温の高さは一面に過ぎず、氷の減少、海面の高さ、海洋熱と酸性化の拡大、極端な気候なども問題点として指摘されている。2019年の海洋熱は過去最大であった。
「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は2021年の第6次評価報告書公表に向けて活動を進めている。2020年2月24~28日に、パリで開催されたIPCC第52回総会では、IPCC第6次統合報告書のアウトラインが合意された。新型コロナウイルスの影響が気になるところであるが、現時点では、第1作業部会評価報告書:自然科学的根拠、第2作業部会評価報告書:影響・適応・脆弱性、第3作業部会評価報告書:気候変動の緩和は、それぞれ2021年4月、10月、2021年9月に予定されている総会で、統合報告書は2022年5月に予定されている総会で、承認・受諾される予定である。
温暖化による世界経済への悪影響はよく知られているが、その影響は国毎に大きく異なる。長期投資を考える上では、気候変動による経済的な影響の違いに注目する方法もありえよう。2019年6月にMoody’sが公表した「The Economic Implications of Climate Change」では、気候変動による各国経済への影響を試算している。その中では、(1)海面上昇、(2)健康への影響、(3)労働生産性への影響 、(4)農業生産性への影響、(5)観光産業、(6)エネルギー需要、という6つの要因が考慮されている。6つの要因の中では「観光産業」と「原油価格変動」の影響が大きいようだ。
RCP8.5(4.1度上昇)というシナリオのもとでは、2030年頃まで目立った違いは出てこないが、2048年時点での影響を比較すると、対象69ヵ国の中では、影響がプラスの国が24ヵ国、マイナスの国が45ヵ国であり、総じて悪影響が勝ると見込まれている。最も好影響を受けるのがルクセンブルグ(1.07%)、最も悪影響を受けるのがサウジアラビア(10.85%)と、影響の差は大きい。経済規模が大きい国の中では、カナダ、イギリス、ドイツ、フランス、米国が若干のプラス、日本、韓国、イタリアが若干のマイナス、ブラジル、中国、ロシア、インドがマイナスと予想されている。
(株式会社フィスコ 中村孝也)