3月7日、レバノンのディアブ首相は償還期限を迎える12億ドルの外貨建て国債について、支払いを延期すると表明した。
レバノンの2018年GDPは566.39億ドル(6.2兆円)。2017年の輸出は40.3億ドル、輸入は201.1億ドルで、多くを輸入に依存してきた。2009~2018年平均では1.1兆円/年の経常赤字に対して、金融勘定を通じて0.7兆円/年の資金流入があったが、過去数年は資金流入で賄いきれなかった分が、外貨準備の減少をもたらし、外貨準備高は2017年の406.4億ドルから231.6億ドルに減少している。889億ドルの対外短期債務に対して外貨準備高の水準はあまりにも低く、デフォルト宣言はそもそも「時間の問題」であったのかもしれない。
2019年12月2日付のNew York Timesは、「レバノンの銀行は、政府に融資して利息を稼ぎ、法外な金利を大口預金者に約束している。公的債務の増加を通じた一部個人の資産増加というのは持続不可能。資本はレバノンリラのドルペッグに拠出される一方、経済の輸入依存度は高く、資本は生産性の改善のために投資されていない」と指摘していた。また、ナシム・ニコラス・タレブ氏も「レバノン政府はポンジスキームにかかわっており、システムからすべての資金を吸い上げている」と強く批判している。
治安情勢も悪化していた。2019年10月17日夜に、レバノンのデモが始まった。サード・ハリリ首相が辞意を表明したが、デモ参加者の怒りは、1975~90年の内戦以来、国を支配している宗派主義の政治家の腐敗に向けられている。「カルロス・ゴーンの今後が心配、ソレイマニ司令官殺害から見る中東力学【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」でも、別の観点からレバノンを取り上げた。
コロナウイルス禍から世界的に景況感が悪化する中、脆弱性の高い国では問題が顕在化しやすくなる。短期債務に対し外貨準備の水準が低い国の中で、外貨準備高が減少傾向にあるのは、レバノンの他には、アルゼンチン、パキスタンなどである。米ドル建て債務の規模感という観点からは、アルゼンチン、トルコなどが気にかかる。アルゼンチンの経済相は、2019月12月11日に「アルゼンチンは事実上のデフォルト状態にある」と既に言及済である。
(株式会社フィスコ 中村孝也)
写真:ロイター/アフロ