3月2日、OECDは「経済見通し中間報告」を発表し、2020年の世界実質GDP成長率を2.4%、2021年が3.3%と予想した。2020年の見通しは、2019年11月に発表した見通しから0.5%ポイントの下方修正となる。
もっともこれは「コロナウイルスが総じて抑え込まれる」ことが前提とされており、中国のような感染拡大が広くアジア太平洋地域と先進諸国全体で見られると、2020年の世界経済の成長率は1.5%まで低下する可能性が指摘されている。これは、1~3月に中国、香港の内需が4%減となるのに加えて、4~9月に他のアジア太平洋地域と北半球先進国の内需が2%減、2020年に世界株価と非食品価格が20%下落、リスクプレミアムが50bp上昇、2021年を通じて緩やかにリスクが軽減していくことが前提とされている。
もっとも、パンデミックが現実のものとなった場合には、経済への影響はもう一段大きいものとなる可能性が考えられる。「新型コロナウイルスと経済の関係」では、スペイン風邪のようなパンデミックが発生すればGDPを10%ほど押し下げても不思議でなく、経済成長率がリーマンショック当時のものを割り込む蓋然性が高いとの見方を提示した。
スペイン風邪については、上記で参考にした世界銀行の試算以外に、米議会予算局も試算を公表している。2005年の報告書では「スペイン風邪に匹敵する深刻な事態では、全米で9,000万人が感染、 200万人が死亡する」という想定に基づいて、実質GDPが年間約5%押し下げられると試算した。供給面では、農業部門以外の労働者人口の30%が感染して少なくとも3週間仕事を休む、感染者のうち2.5%が死亡することで、GDPが3%以上減少する。需要面では、芸術、エンターテイメント、娯楽、レストランやホテル産業などが最も影響を受け、これらの産業の需要が80%減少し、航空、電車などの交通サービスの需要が67%、小売部門の需要が10%減少する結果、GDPが2%減少すると試算している。
ちなみに世界銀行の試算の元になったのはMcKibbin氏とSidorenko氏による「Global Macroeconomic Consequences of Pandemic Influenza」であったが、McKibbin 氏は3月2日に「The Global Macroeconomic Impacts of COVID-19: Seven Scenarios」を発行した。労働力、株式リスクプレミアム、生産コスト、消費需要、政府支出への影響を勘案し、7つのシナリオに基づく経済影響が示されている。スペイン風邪に対応するシナリオでは、多くの国で1桁後半のGDPへの悪影響が見込まれている。また、軽度のパンデミックが無期限に毎年再発するというシナリオでは、2%程度の悪影響が累積されていくイメージが描かれている。
(株式会社フィスコ 中村孝也)
写真:新華社/アフロ