◇以下は、FISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 2018年冬号 −10年後の日本未来予想図』(10月5日発売)の特集『アマゾン・エフェクトの脅威』の一部である。全9回に分けて配信する。
米アマゾン・ドット・コムの急成長・急拡大による市場での混乱や変革。一大現象となっているアマゾン・エフェクト。実店舗からオンラインへと消費者購買行動が移行し、米国内の百貨店やショッピングモールが閉鎖に追い込まれるなど、既存の消費関連企業に衝撃をもたらした。同社のさらなる買収や事業拡大は他の分野にも広がっており、その影響で収益低下が見込まれる「アマゾン恐怖銘柄指数」なるものまで設定された。アマゾン・エフェクトとはいかなるもので、これから日本にもどのような影響を及ぼすことになるのか。アメリカで起こったことを検証しながら考察してみた。
社会インフラ化するECサイト
本格的な高齢化社会が到来した日本において、ECサイトの役割はこれまで以上に大きくなるだろう。
イオン<8267>などの大手モールが進出した地域では、その周辺の商店街が一網打尽に駆逐され、地域社会に根付いていた商店は絶滅危惧種のようになってしまった。それにより過疎化する地方に住む高齢者たちは、遠く離れたロードサイドの巨大モールまでマイカーで行かなければならなくなった。しかし、高齢者の交通事故が増えていることもあり、運転免許証を返納する人も増えている。歩ける範囲に商店がなく、自動車を運転できないとなれば買い物ができなくなってしまう。
農林水産省が発表した『食料品アクセス困難人口の推計結果』によると、自宅から歩いて行ける距離にコンビニエンスストアもスーパーマーケットがなく、食料品などの買い物が困難な65歳以上のいわゆる「買い物弱者」は、2015年時点で824.6万人、全65歳以上人口の24.6%に上るという。2005年の同調査と比べると21.6%も増え、意外なことに地方だけでなく大都市圏でも増加が目立っている。
こうした状況のなかでは、配送業者が自宅まで商品を運んでくれるECサイトの重要性は今後ますます増すに違いない。もっといえば、買い物弱者といわれる高齢者でなくても、自宅にいながらにしてあらゆるものを購入できて、すぐに家に届くのであれば、わざわざショッピングモールまで行く必然性はなくなる。 今後、この状況が進めば、アメリカの後追いをするように、イオンに代表される大型ショッピングモールが廃墟化するケースが増える可能性はある。一方で、配送業者の社会インフラとしての重要性は増し、配送業者の送料の上昇傾向は続くだろう。
マクロ経済にも影響を及ぼすアマゾン・エフェクト
消費者はスマホを使えば、どの店で安く買えるかが簡単にわかるようになった。そうなると、店側も最も安く価格になるように努力する。値段の格差はなくなり、商品価格が一律化され、価格が抑えられる傾向になるということだ。アメリカでは価格競争力があるアマゾンでの販売価格を誰もが簡単に見ることができるようになったことで、他のECサイトのみならず、リアル店舗も「アマゾンに客を取られまい」となっている。つまり、価格の下方圧力が強まっているということだ。
消費者にとっては、商品が安く買えることはうれしいことだが、この傾向が進むことは、必ずしも消費者にとっていいことばかりではない。世の中の店が自らの利益を減らして値引きすれば、世の中全体の賃金が下がってしまう。その動きはだんだんと広がり、様々な産業で労働賃金が頭打ちになる。まさにデフレや低インフレが続く日本が経験した物価は上がらないが、賃金も上がらない状態だ。
実際、アメリカの失業率は3.9%(2018年7月)と、近年まれにみる低失業率にもかかわらず、労働賃金の上昇率はペースダウンしている。従来なら失業率が下がって人手不足になれば賃金の上昇が起こり、それがインフレ圧力になるはずだ。しかし、アマゾンのようなECサイトの存在感が大きくなったことも影響して必ずしもそうはなっていない。
日本がそうであるように財政を出動し、金融の緩和を行って景気を刺激しようとしても、以前ほど思惑どおりにならないのは、IT社会やクラウド社会が経済や社会の形を大きく変えているのに、当局の考えが旧態依然であることにも原因はあるだろう。
「アマゾン・エフェクト」は、小売業界に大きな影響を与えるだけにとどまらず、マクロ経済にも影響を与えている。これまでも予想を超えるサービスを提供してきたアマゾンだが、今後の動きからも目が離せない。