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2023.02.27 経済金融

座談会:「オレオレトークン」による錬金術が崩壊した暗号資産業界、リーマンショックと変わらぬ構図
JNF Symposium 暗号資産業界に希望はあるか(1)

実業之日本フォーラム編集部

 実業之日本フォーラムでは、テーマに基づいて各界の専門家や有識者と議論を交わしながら問題意識を深掘りしていくと同時に、そのプロセスを「JNF Symposium」と題して公開していきます。議題は、昨年に市場が一気にシュリンクした暗号資産業界です。今回の議論の相手は、エンジニアであり、ツイッター上で7万5000人ものフォロワーを抱える「ヨーロピアン」氏と、ブロックチェーン関連企業の取締役を務め、ツイッターのユーザー名「なまはげ」としても知られる田原弘貴氏。テラやFTXといった暗号資産関連企業は、「オレオレトークン」と呼ばれる自社発行トークンを使って規模を急拡大させましたが、詐欺的スキームが露呈して破綻に追い込まれました。その構図は、かつてのリーマンショックに通じるようです。(座談会は2022年12月19日に実施)

白井一成(実業之日本フォーラム編集主幹):これまで暗号資産(仮想通貨)業界は、金融緩和の下、世界的にWeb3(ウェブスリー)に注目が集まり、ブロックチェーンの有用性が確認される中で、マネーが流入して急速に拡大しました。しかし2022年、米国はじめ各国が金融引き締めに転換したことで、市場は大きく動揺しました。5月上旬に起きたステーブルコイン「テラUSD(UST)」の崩壊に始まり、多くの暗号資産関連企業が苦境に陥り、11月には取引所大手のFTXが破産しました。

暗号資産業界にとって本格的な金融引き締め局面は初めての経験で、また大手破綻を受けた規制強化の流れも報じられています。こうした中で、今後の暗号資産業界はどうなるのか、そして日本は国益の観点から暗号資産にどう関わっていったらよいのか、お二人と議論していきたいと思います。まず、テラのビジネスモデルと破綻の経緯についてお伺いします。

見せかけの担保による錬金術

ヨーロピアン:テラ(Terraform Labs)は、韓国に本社を置くブロックチェーン開発企業で、「UST」というティッカー(通貨コード)のステーブルコインを発行していました。「ステーブルコイン」とは、一定の仕組みの下、法定通貨との連動を目指し、一般的には投機性が薄いとされる暗号資産です。そしてUSTは、米ドルにペッグ(連動)することを狙ったステーブルコインの一つです。

ただ、USTの価値を担保していたのは、法定通貨ではなく、テラ自らが発行する「ルナ」という独自の暗号資産でした。ルナを活用しながら、複雑なアルゴリズムによって価格を維持しようとする仕組みで、こういう実質的な裏付けのないステーブルコインのことを、一般的に「アルゴリズミック・ステーブルコイン」と呼んでいます。

ルナはUSTの価値の源泉です。ルナとUSTの交換を通じてUSTの発行量が増減する仕組みになっています。例えば、1USTの価値が1ドルを上回っているときは、1ドル分のルナをUSTに交換することで、1ドルを上回る分だけ追加でUSTが発行されます。同時にルナはバーン(償却)されます。USTの供給量が増えることでその価値を下落させ、1UST=1ドルになるように調整します。

反対に1ドルを下回っているときは、USTの供給量を減らすためにUSTを買ってルナと交換します。USTはバーンされて価値が上昇し、1UST=1ドルになるよう調整されます。一般的には、発行元が暗号資産の供給量を増減することをユーザーが知っていると、ステーブルコインの価格変動の幅(ボラティリティー)が大きくなるのですが、それを防ぐためにルナがボラティリティー自体を吸収するようになっているわけです。

なぜ、こうした仕組みを持つテラが破綻したかというと、投機的な売りをきっかけに、ルナとUSTの時価総額がどんどん下がる悪循環が起こったためです。お話ししたように、USTの価値が下落した場合、本来はルナとの交換(=ルナの発行)によってUSTをバーンして、1UST=1ドルに戻すアルゴリズムになっています。ただ本質的に、このルナという暗号資産、トークンにどういう価値があるのか、テラはちゃんと説明していません。

ルナは、何となく流動性があって、価格がついているというだけで、「見せかけの担保」なのです。業界では「オレオレトークン」と言いますが、特定の発行者が自分の都合のいいように発行した暗号資産に、「これだけの価値があるぞ」と宣伝する。実態がよく分からないまま、「発行量がこれだけだから、時価総額はこれだけあるよね」という皮算用をして、これが担保ですと名乗るという、むちゃくちゃな仕組みが横行してきたんです。

ルナも「オレオレトークン」の一つで、それを担保にUSTを発行していた。だから、USTの価格が下がり始めたときに、それに応じてルナを発行することになった。ルナ自体の時価総額は確かに発行数に応じて増えますが、ルナの供給量が急増する分、ルナ自体の価格も下がる。USTとルナの下げのスパイラルに入ってしまい、一気に崩壊したというのが「テラ・ショック」の全体像です。

要は、「担保の価値のないものを担保に入れていたので破綻した」という話でしかないんですけど、事実は小説より奇なりで、これが本当に一部始終ということになります。

「年利数千%」の取引も

白井:一般的なステーブルコインは、米国債など裏付けとなる資産がありますね。ルナというステーブルコインはどういう仕組みだったのかを、もう少し詳しくお聞かせください。

田原弘貴(なまはげ):テラのビジネスモデルからルナの仕組みが見えてきます。つまり、勝手に発行したルナを担保にステーブルコインを発行して、じゃあ、ルナの価値はどこにあるのかというと、ステーブルコインを発行することという「循環論法」で、結局価値のないステーブルコインを発行する――これがテラのビジネスモデルでした。

アルゴリズミック・ステーブルコインという概念自体はテラ特有のものではありません。ただ、テラ・ショックまで、ステーブルコインの取引が大きく膨れ上がったのは、2021年特有の現象が背景にあります。それは、暗号資産を貸し出すことで非常に高い利率が約束されていたことです。

少しさかのぼりますが、2020年に「ファーミング」や「ステーキング」といった概念が生まれました。これは、ある暗号資産を貸し出したり、特定の口座に預けたりすると、その期間に応じて同じ暗号資産が付与され、それが利息になる金融取引です。もっとも、利息を付与する側は「オレオレトークン」を発行するだけなので、「年利何百%」とか「何千%」とか、非常に高い利率の取引が横行しました。

その流れはいったん落ち着きますが、今度は、「オレオレトークン」よりもうちょっと資産性のあるものが付与される。テラのUSTは20%ぐらいの利率で、年利何千%の「オレオレトークン」から見たら、ちょっと実需がありそうな「ステーブルコイン」でした。ただ、結局はどこまで行っても本質的な価値はないものを付与し続けていた。

これまでアルゴリズミック・ステーブルコインは流動性がないのが一般的でしたが、テラは、高い利息を付けることで顧客を呼び込んで成長した。さらに言えば、「オレオレトークン」を使ってまともそうに見せかけたアセットを、いかに高い利率で自転車操業的にビジネスをしていくか――というバランスシートを膨らませる競争の結果、「架空の時価総額」だけが膨れ上がり、破裂したのがテラ・ショックだったわけです。

白井:暗号資産の融資サービス(レンディング)を行っていたセルシウスも、テラの後を追うように破綻しましたね。

田原(なまはげ):セルシウスのようなレンディング業者は、貸し手(投資家)が、ビットコイン、USD、イーサリアムといった、それなりに価値の信認がある暗号資産を預け入れると、一定の利息が返ってくるというサービスを展開しています。利息水準は高いときだと10%程度で、2021~22年当時の法定通貨と比べたら非常に高かった。

セルシウスは2019年には債務超過に陥っていたと言われており、そもそもレンディングを続けられない財務状況にあったんです。それでも高い利率を約束して顧客資産を集めるという、典型的なポンジスキーム(投資詐欺)を展開していました。基本的には、「CEL」という自分たちが作ったトークンを売り付けてファイナンスしていた。場合によっては、顧客の資産に手をつけてCELを買い上げて価格を一時的につり上げ、市場が盛り上がっているように見せかけるところまでやった。

結果的に、テラ・ショックを受けて、暗号資産業界が連鎖倒産していく中でセルシウスの財務状況も明るみになって、破産に追いやられ、顧客の資産は多分ほとんど返ってきていない。セルシウスの破綻も基本的には、架空の利息で顧客から集めたビットコインなどの優良資産で、「オレオレトークン」のCELの時価総額を膨らませるという、「循環論法」の崩壊から発生したということになるかと思います。

白井:金利と借入元本が自社の発行しているトークンだったら、無限にトークンを作って渡せばいいわけですね。金利分=新規発行した分だけ希薄化し、1トークン当たりの価値は下落しますが、破綻はしません。

一方でビットコインのように、金利と借入元本について、自社で調達するのに原資が必要なトークンの場合、その調達コストを上回る利益を上げつつ、投資元本も回収しないと借入返済ができなくなります。いわゆる、一般の銀行やノンバンクの経営を暗号資産事業でも同様に行うということです。しかし、今回のセルシウスの件は、返すつもりがないにもかかわらず、「高利回り」をうたいながら顧客から資産を集めて賄う。この流れがまさにポンジスキームだ、という理解で正しいですか。

田原(なまはげ):そう思います。「DeFi(分散型金融)バブル」と騒がれた当時、「年利1000%」といった非常に高い利息が実現できていたのは、自社発行トークンをステーキング(預け入れ)すると自社発行トークンが付与されるからで、ある意味持続的だった。ただ、テラのUSTはドルとのペッグをうたっていますし、セルシウスのようなレンディング業者も、利息はビットコインやドルといった流動性のある「堅い」資産で払う。ただその支払原資は、顧客資産や、自社発行の本質的な価値のないトークンを使ってファイナンスしたものだった――ということだと思います。

白井:こうした詐欺的スキームは、テラからセルシウスの事件にかけ、徐々に悪質性が増していったのでしょうか。

ヨーロピアン:セルシウスは、最初のころは収益化できるビジネスモデルを目指していたと思います。かなりハイリスクなDeFiで運用していたようですが、顧客から資産を預かって運用した利回りが、顧客に支払う利息より高くなることを狙っていました。しかし、いくつかの運用に失敗し、何十億円の損失が発生したと発表していました。その失敗を糊塗(こと)するために、「これだけの預かり資産があるから、セルシウスの発行するトークンには価値がある」とPRして、そのトークンを買わせた原資でユーザーに高い利息を払い、その実績があるからトークンに価値がつくといったロジックに「落ちて」いった。初めからそのつもりじゃなかったとは思うんですが、設定した利回りと運用方法が破綻していたので、それを埋めるために自転車操業の投資詐欺に手を染めたんでしょう。

相場上昇を過信し、ハイレバレッジに傾斜

白井:ではFTXは、当初から悪質性の高いビジネスモデルだったのでしょうか。

田原(なまはげ):FTXも、当初から悪意があったとは思いません。けれども、テラやFTX、セルシウスといった企業は、お互いファイナンスし合っていた傾向にありました。株式のようにお互いに暗号資産を持ち合っている関係が恐らくあったはずですが、どんどん収益性が悪化していく中で顧客資産に手をつけていったということだと思います。

ヨーロピアン:FTXの設立は2019年5月なので、破綻までわずか3年ぐらいでしたが、その間に取引高で世界第2位にまで駆け上がった。通常、そういう急成長を果たすには取引所事業だけでは成り立たないので、レバレッジ(借り入れによるテコ効果)をかける必要がある。それが彼らにとっては姉妹会社のアメラダリサーチを通じた投資、つまりスタートアップが発行する暗号資産のプロジェクトに直接投資して、そのトークンを売りさばくという事業でした。取引所としての収益は十分あったはずですが、急拡大のためにはそれだけでは足りなかった。顧客資産に手を付けていても、流動性のある投資対象だったらまだ何とかなったんですけど、信用力に乏しいスタートアップの株式やトークンになっていたので、それを放出して顧客に払い戻すこともできないという状態をつくってしまった。

白井:これらの構図は、暗号資産特有のものではなく、今までの金融においても類似した事例は散見されます。まず、リーマンショックの引き金となったサブプライムローンを起点とした証券化は、金融版「オレオレトークン」と言えます。

当時の証券化商品は、担保価値も借入人の信用力も低い住宅ローンを優良債権にいわば偽装し、それらを無数に束ねることでリスクが低減される、という理屈により高い信用格付けを取得し、無知な投資家に金融商品として売却されました。これは、売り手と買い手の情報の非対称性を利用し、価値の低いものを価値の高いものを交換した合法的な商取引であるものの、モラルやルールを大きく逸脱していたことが非難されたと考えています。オフショア(規制や税制で優遇される国際金融市場)の暗号資産業界は、ルールが未整備でありモラルがないため、「オレオレトークン」は起こるべくして起こったと言え、早急なルール整備を行い、モラルが保たれるようにするべきでしょう。

次に、ポンジスキームは、洋の東西を問わず枚挙に暇がない金融詐欺です。そもそも集めたお金を運用するつもりはなく、集めたお金から高い利払いをすることで投資家を集めるため、どこかで行き詰まる持続不能な仕組みです。ウォール街を震撼させたバーナード・マドフによる米国史上最大の金融詐欺が記憶に新しいかと思います。

また、ヨーロピアンさんが指摘するように、当初は詐欺をするつもりがないパターンもあります。例えば、破綻したベアリングス銀行のシンガポール支店や、大和銀行ニューヨーク支店の事件が挙げられます。これらは、投資担当者が投資に失敗した損失を隠蔽するために、無断で借用した会社のお金を運用した利益で穴埋めするつもりが、逆に損失が広がる。その繰り返しでどんどん損失が広がって、最後には破綻する詐欺です。これは企業のガバナンスやコンプライアンスの問題であり、無断で資金を動かせないようにすることが肝要なのです。これもオフショアの暗号資産業界には欠落していた部分であり、迅速な対応が求められます。

(第2回に続く)

【参考資料】伝統的な金融と暗号資産との規模比較
  一般金融 暗号資産
時価総額 銀行:6兆9520億ドル

CEX(中央集権型取引所):
544億ドル

銀行+ノンバンク:
9兆7830億ドル

CEX+DEX(分散型取引所):
629億ドル

証券(不動産含む):
3兆1370億ドル

資産 金:11.5兆ドル規模 ビットコイン(時価総額・最大):1兆ドル
株式:90.3兆ドル 暗号資産(ビットコイン含む市場全体の時価総額):2.7兆ドル
預かり資産 銀行:30兆4580億ドル 暗号資産(現物):43億ドル
運用会社:112兆ドル
リーマンショックとFTX破綻の比較
  リーマンショック FTXショック
破綻時の負債総額 リーマンブラザーズ証券:6130億ドル FTXグローバル:最大で500億ドル
資産残高 サブプライムローン残高顧客からの預かり資産総額:1兆5000億ドル 顧客からの預かり資産総額:
160億ドル
流通総額 RMBS(住宅ローン担保証券)の流通総額:1兆3000億ドル(最大) 暗号資産FTTの流通時価総額:
30.1億ドル(最大)
CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の流通総額:61兆ドル(最大) FTX破綻報道で失われた暗号資産FTTの流通時価総額:30億ドル
CEXにおける暗号資産の取引増加率:-52%(11月:6730億ドル→12月:3222億ドル)
DEXにおける暗号資産の取引増加率:+66%(10月:488億ドル→11月:808億ドル)
救済 サブプライムローン問題の救済者想定数(*米国内):11.1万人(1,060億ドル) FTXの債権者数:10万人以上(数兆円)
破綻企業数と破綻企業例

サブプライムローン問題をきっかけに経営危機に陥った金融機関:08年末時点で214行

(例)
・AIG:公的資金850億ドルを注入
・シティグループ:250億ドルの公的資金注入+200億ドルの追加の公的資金注入
・バンク・オブ・アメリカ:250億ドルの公的資金注入、メリルリンチを買収

FTX破綻前後にて倒産した暗号資産業者数:22年末時点で1社(破綻申請は約130社)

(例)
・セルシウス:11.9億ドルの負債を抱えて破綻
・ブロックファイ:最大100億ドルの負債を抱えて破綻
・ジェネシス・グローバル・キャピタル:債権者は10万人、推定負債は10億ドル〜100億ドル

貸倒引当金 リーマン破綻による信用収縮で金融機関が積み上げた貸倒引当金(損失):合計2900億ドル
公的資金投入額 当局による公的資金投入額:7000億ドル(うち214の銀行に対して約1800億ドルの資本注入)

 (出所)編集部作成(2023年2月7日現在)
(注)「一般金融」の時価総額・資産・預かり資産は、円ベースの数値を1ドル=132円でドル換算

白井 一成
シークエッジグループ CEO、実業之日本社社主、実業之日本フォーラム論説主幹
シークエッジグループCEOとして、日本と中国を中心に自己資金投資を手がける。コンテンツビジネス、ブロックチェーン、メタバースの分野でも積極的な投資を続けている。2021年には言論研究プラットフォーム「実業之日本フォーラム」を創設。現代アートにも造詣が深く、アートウィーク東京を主催する一般社団法人「コンテンポラリーアートプラットフォーム(JCAP)」の共同代表理事に就任した。著書に『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』(遠藤誉氏との共著)など。社会福祉法人善光会創設者。一般社団法人中国問題グローバル研究所理事。

ヨーロピアン
国内黎明期から暗号資産・ブロックチェーンを技術・金融の両面で追い続けるエンジニア。技術者として活動するかたわら、個人投資家として10年以上相場に向き合っている。 

田原 弘貴
クシム取締役CTO、Turingum取締役CTO
Web3に関するコンサルティングと開発を行うTuringumを東京大学在学中に創業。DeFiを活用して顧客の強みを活かすシステム設計を得意とする。大学時代は中小企業診断士として活動するかたわら、エンジニアとしてブロックチェーンに興味をもつ。Twitterでは「なまはげ」という名前でブロックチェーン(と趣味のウイスキー)について発信しており、YouTubeチャンネル「ビットコイナー反省会」にも不定期出演している。

写真:ロイター/アフロ

実業之日本フォーラム編集部

実業之日本フォーラムは地政学、安全保障、戦略策定を主たるテーマとして2022年5月に本格オープンしたメディアサイトです。実業之日本社が運営し、編集顧問を船橋洋一、編集長を池田信太朗が務めます。

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