コロナショック後の世界経済では、相対的に中国の景気が堅調である。IMF(国際通貨基金)は世界の194ヵ国中、26ヵ国で2020年にプラス成長を予想しているが、中国もそのうちの1つである。2020年はプラス1.9%、2021年はプラス8.2%の成長が予想されている。
一般的に経済成長は、労働増加による経済成長、資本増加による経済成長、技術進歩による経済成長に分解される。かつての中国の高成長は、直接投資を中心とした資金流入により実現してきた面が大きかった。例えば、1995~2011年の中国の平均成長率は9.9%であり、労働投入量の拡大、資本投入量の拡大、全要素生産性の上昇による寄与度はそれぞれ0.7%、5.3%、3.7%であった。
中国への直接投資ブームが既に一巡したことに加え、激化する米中対立を受けて、海外からは中国への投資を躊躇する動きも見られる。中国からの対外直接投資も立ち上がったことから、資本増加が中国の経済成長を大きく押し上げる展開を期待することは難しそうだ。また高齢化の進展により、労働も経済成長にマイナスに寄与することが必至な情勢である。
かつてのソロー・パラドックスのように、「ICTは本当に経済を成長させるのか」という疑問は完全に払拭されていない。それでも、中国が高めの成長率を維持するためには、日本経済研究センターの「2060デジタル資本主義」で指摘されているように、経済の開放度を高めていくことが有効なのであろう。それが可能であれば資本流入にも好影響を与えると考えられるが、現状の米中対立のもとではなかなか困難なようにも思われる。
S&Pの「Economic Research: China‘s Tech Independence Won’t Come Cheaply」では、2021~30年の中国の経済成長率を展望しており、メインシナリオでは年率4.6%の成長が予想されている。ただ、中国がデカップリングを実現しようとすると、少なくとも当初は投資の増加に見合ったリターンを得ることは難しい。中国自体もネットワーク効果の恩恵が得られなくなるため、「自立を高める代償として、経済成長の鈍化が避けられない」と指摘されている。中国の経済成長率が上位10%から上位25%に落ちることで年率3%の成長に減速する可能性が、下ぶれシナリオとして示されている。
(株式会社フィスコ 中村孝也)