「IMFは引き続き資産価格を割高と評価」ではIMF(国際通貨基金)が発行したGlobal Financial Stability Reportを紹介したが、同時期に公表された「世界経済見通し」では2020年の世界GDPをマイナス4.4%成長予想とし、前回の予想から0.8%ポイント上方修正された。2021年はプラス5.2%成長予想である。先日公表されたOECD(経済協力開発機構)による見通しと同様に、これまで過度に慎重であった経済予想が実績に沿う形で全般的に上方修正されている。
個別国の経常収支の予想を見ると、2021年の経常収支が1年前の予想から改善すると見込まれているのが、米国、インド、ドイツ、ブラジル、メキシコなど、悪化すると見込まれているのがフランス、ロシア、日本、マカオ、中国などである。7月に公表された「2020 External Sector Report: Global Imbalances and the COVID-19 Crisis」では、コロナショックは対外不均衡を是正する方向に働くことが期待されていたが、それに沿った内容である。
もっとも、対外収支不均衡が解消する動きは現時点では確認しづらい。4~6月期の米国の経常赤字は1,705億4,100万ドルと、1~3月の赤字額1,115億1,600万ドルから拡大し、12年ぶりの大幅な赤字額となった。中国の経常収支も1~3月の337億ドルの赤字から、4~6月に1,102億ドルの黒字へ転換。こちらも12年ぶりの黒字額である。足元の状況からは、コロナショックによって対外収支不均衡の動きが加速しているように見えなくもない。
また、中期経済成長率は世界が3.5%程度、先進国は1.7%程度、新興国は4.7%程度と言及された。中期的な成長見通しの低迷の理由として「政府債務残高の大幅な増加」が挙げられている。IMFはほぼ四半期毎に経済見通しを公表しているが、中期の経済見通しに言及があったのは久方ぶりである。最後に言及があった2019年10月時点では、2020年以降の成長率は世界が3.6%程度、先進国が1.6%程度、新興国が4.8%程度とされていた。
久方ぶりの中期経済成長への言及は、コロナショックからくる異常な経済収縮とその反動が落ち着き、経済の先行きが議論しやすくなったことも影響していよう。もっとも「新興国の経済成長が牽引して、世界経済は3%台半ばの成長を続ける」という基本的な見方は変わっていないようだ。コロナショックで中期的な経済成長率は下方屈折しないのか、経済成長の牽引役を引き続き新興国に期待できるのか、は今後確認していかねばならない論点である。
(株式会社フィスコ 中村孝也)