9月5日、ランド研究所上級防衛アナリストであるデレク・グロスマン氏の「アメリカは第二列島線で大きな賭けをしている」というコメンタリーが「THE DIPLOMAT」誌に掲載された。グロスマン氏は、国防情報局(DIA:Defense Intelligence Agency)局長、アジア太平洋安全保障担当国防次官補の情報ブリーファー及びCIAで大統領のデイリー・ブリーフ・スタッフを務めた米国政府きってのアジアの安全保障政策の専門家であり、国家安全保障政策とインド太平洋の安全保障問題に焦点を当て、特に日本、台湾、韓国、ベトナム、太平洋諸島との関係に関心を持っている。8月28日にエスパー国防長官がパラオ共和国(以下「パラオ」という)を訪問したが、グロスマン氏は、エスパー長官のパラオ訪問の意義、訪問中のレメンゲサウ・パラオ大統領との会談内容や両国の要望事項などについて、太平洋地域の安全保障専門家としての見方を紹介している。
パラオ共和国は1919年、第1次世界大戦の戦後処理をする「パリ講和会議」により、1945年の第2次世界大戦の終戦まで、日本の委任統治下に置かれた。日本統治時代、学校や教育、道路や各種のインフラが整備され、国の近代化が推進された。多くの日本人もパラオに移住しており、日本語も普及している親日国だ。1947年からは国際連合の委託を受けた米国の信託統治下に置かれ、英語による高等教育や豊富な食料等の供給を受けている。1994年10月、米国との「自由連合盟約国」(COFA:Compact Of Free Association)関係を結び、独立を果たした。ただし、盟約により、国防、安全保障及び外交権限の一部を米国に委ねている。総面積459km(屋久島と同程度)、人口約2万人の小さな島嶼国家であるが、中国の主張する防衛線の「第二列島線」上に位置し、米国の国防戦略上極めて重要な意味を持つ国家である。
グロスマン氏によると、「ワシントンは、台湾海峡、東シナ海、南シナ海を含む第一列島線の共同作戦を支援するため、第二列島線の防衛態勢を強化する可能性が高い。太平洋島嶼国との安全保障協力を強化し、防衛態勢強化を図るだろう。北京が第一列島線へのアクセスを拒否した場合、あるいは最悪の場合の保険として、第二列島線へのアクセスを維持しなければならないと考えるだろう」と政府の判断を推測している。また、「この地域は北太平洋の中心部を通ってアジアにいたるパワープロジェクション・スーパーハイウェーに相当し、ハワイの米軍と戦場の米軍、特にグアムの米国領内の前方活動拠点を結んでいる重要な物流ネットワークルートである」と米国の戦略上の重要性を主張している。
中国は、過去5年間だけでもソロモン諸島とキリバスという2つの太平洋のパートナーの切り離しに成功している。グロスマン氏は、「米国はパラオへの年間資金提供の継続を保証する2024年度からのCOFAの更新に合意し、パラオに対する中国の『一帯一路』構想への勧誘や台湾との国交断絶への誘惑を抑制させなければならない。レメンゲサウ大統領は、共同使用の基地の建設とその基地の定期的使用を要求しているが、米国は長距離レーダー施設の建設計画を要望しており、双方の思いにやや隔たりがある」と指摘している。
グロスマン氏は、コメンタリーの最後に、「エスパー長官は言及していないようだが、ワシントンは地上配備型の中距離ミサイルを太平洋に配備することを選択する可能性がある。2019年8月、中間距離核戦力(INF:Intermediate-Range Nuclear Force Treaty)条約から脱退したことで、日本、オーストラリアが配備の候補に挙がるのは明らかだが、中国の射程圏内にある唯一の自由連合盟約国であるパラオも検討の対象になるだろう」と今後のミサイル配備構想を見積もっている。