「米中デカップリングの経済的影響」では、貿易やテクノロジーの流れが遮断されるという観点から、米中デカップリングによる両国への経済的影響を確認した。9月9日にAmcham Shanghaiが公表した「2020 China Business Report」では、在上海米国企業の75%強が「中国外に生産を移す考えはない」と回答する一方で、約4%が「米国に一部でも生産を移転する」、14%が「米中以外の国に一部を移す」と回答した。現時点で中国外への生産移管という動きは限られているようだが、同じ調査では、今後3~5年の最大の課題について71%が「米中関係」と回答し、「米中貿易緊張」について26.9%が「永久に続く」、22.5%が「3~5年続く」と回答している。米中デカップリングが実現する過程では、サプライチェーンの再構築も不可避と見ておいた方がよいのかもしれない。
ドイツ銀行は、テクノロジー冷戦によるICTセクターのコストを「今後5年間で3.5兆ドル」と試算している。内訳は、(1)中国国内最終需要の減少(4,000億ドル/年)、(2)ローカル化によって余分にかかるコスト(1,000億ドル/年)、(3)中国を製造拠点として使用している最終財メーカーのサプライチェーン再構築に起因するコスト(1兆ドル)、で構成されている。
世界のICTセクターの売上は7,300億ドル/年で、中国はそのうち13%を占める。ICTセクターの再輸出比率は平均45%であり、中国国内の最終需要は4,000億ドル/年となる。企業が様々なデータのローカリゼーションを行い、複数のネットワーキング標準をサポートすればコストが2~3%増加すると見込まれ、金額ベースでは1,000~1,500億ドル/年に相当する。中国に関連するICTセクターの簿価は5,000億ドルであるが、サプライチェーンを再構築するためのコストを簿価の約1.5~2倍、サプライチェーンの移転に5~8年かかると想定すれば、移行費用は5年間で1兆ドルと考えられる。
日本企業の現地法人による中国本土での当期純利益は2.1兆円であり、仮にROEを10%と想定すれば、その簿価は20兆円規模と想定される。これを中国外に移管、再構築するのであれば、日本企業全体にとってはトータルで40兆円規模のコストが必要ということになろう。
(株式会社フィスコ 中村孝也)