米国防総省は9月1日、議会に提出した「中国の軍事力についての年次報告書」を公開した。報告書の内容で注目されるのが、中国の著しい核兵器の増強である。現在、中国の核弾頭保有数は200個程度であるが、10年後には400個程度に倍増するという見通しだ。米国が中国の核弾頭保有数について発表するのは初めてであり、この予測は国防情報局(DIA)の分析である。また、ICBM(大陸間弾道ミサイル)においては、射程約500km~約5,50kmの地上発射弾道ミサイル(GLBM)および地上発射巡航ミサイル(GLCM)を1,250発保有していると指摘された。チャド・スブラジア国防次官補(中国担当)は、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、巡航ミサイル搭載戦略爆撃機と合わせ、陸海空からの核による「戦略核の3本柱(トライアド)」の完成が近づいていると警鐘を鳴らす。一方、ミサイル防衛についてもロシア製の地対空ミサイルS-300やS-400、さらには国産システムを含め、世界最大規模の統合防空システムを装備しているとの報告だ。
次に、「中国が世界最大の海軍を保有している」という指摘もあった。中国海軍は、130隻以上の水上戦闘艦を含む約350隻を保有しており、米海軍の約290隻を大きく上回っている。核弾頭搭載の弾道ミサイルの発射が可能な094型原子力潜水艦(普級)6隻に加え、2030年までに最新の096型(唐級)2隻を建造し、8隻体制となる見込みだという。2018年3月には沿岸警備隊に相当する海警局も中央軍事委員会の指揮下にある武装警察部隊の隷下に編成替えされ、事実上の軍事組織化が行われた。装備も12,000トン級の巡視船の導入など増強が続いている。
米海軍大学(NWC)の中国海事研究所(CMSI)の戦略教授アンドリュー・エリクソン博士は、「中国の進歩の速さや軍事力の先進性は米国への警鐘であり、国会議員、外交政策や国防関係者に本報告の内容を大声で伝えなければならない」と関係部門へ注意喚起を行った。エリクソン博士は、中国の「核開発」、「海軍力拡大」といった正面装備の増強の記述に加え、いくつかの注目点を指摘する。
その1つ目は、「海外へのプレゼンスとパワーの投影」という点だ。習近平が推進している「一帯一路」外交政策イニシアチブにより、ミャンマー、タイ、シンガポール、インドネシア、パキスタン、スリランカ、UAE、ケニア、タジキスタンなどの参加各国が、中国の軍事物流施設の中継基地として機能しているという指摘がある。特にカンボジアは、米国からの援助の申し出を断り、中国からの支援によりリーム海軍基地の開発を行った可能性が高いとみられている。また、ジブチにある中国の海外施設で、非合法な行為で主権を主張した事例が報告されているという。さらに、中国は北極圏にも触手を伸ばし、「ポーラシルクロード」構想のもと、2019年にロシアとともに共同で「北極圏研究センター」を設立し、同機関の活動の開始が報告されている。エリクソン博士は、「中国の海外での軍事的存在感の増大は、すでに地域の緊張の原因になっている」と危惧している。
次に、「中国が抱えている軍事的制限・制約」についても指摘された。それは例えば、航空業界は依然として「信頼できる高性能航空機エンジンを生産できず、西洋及びロシアのエンジンに依存している」ことや「海中監視システムを設置しているが、堅牢な深海対潜能力が不足している」など中国が後れを取っている分野が残っている点だ。さらに、報告書は将来についての不確実性に言及している。中国の軍事関連支出はすでに2,000億ドルを超えている可能性があるが、中国の経済成長率は鈍化する兆しがあり、2019年の成長率6.1%から2030年に3~4%に減速すると見積もられ、国防費の伸びを鈍らせる可能性があると予測している。エリクソン博士は、正面装備増強の陰に中国にとっての不安要素があることにも目を向けている。
最後に、エリクソン博士は「今年の国防総省の中国軍事力レポートは、中国の軍隊の能力に関する一般の知識の整理に大きく貢献している。この20年の間に北京がどれほど進歩したか、すでに侮れない勢力となった人民解放軍とその支援勢力は今後数年間でさらに飛躍的に進歩を遂げるであろう」と、悲観的ながらも現実的な近未来の見積もりを述べている。