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2020.08.17 外交・安全保障

米国資本フローの構造分析

中村 孝也

米国は恒常的な経常赤字国であり、国際収支上は資本流入でそのファイナンスを行っている。今回は株式、債券を通じた米国を巡る資本の動きを再確認してみよう。2010~2019年の米国には3,816億ドル/年の資本が純流入となった。同期間の証券投資は2,062億ドル/年の純流入で、資本流入全体の54%を占める。内訳は、対外投資が2,746億ドル/年増加する一方で、対内投資が4,808億ドル/年増加した。
証券投資が2,062億ドル/年の純流入となったうち、株式は879億ドル/年の純流出、債券は2,941億ドルの純流入であった。株式は対外投資が1,248億ドル/年増加する一方で、対内投資が369億ドル/年増加した。対内投資の増加が限られたのは、2015~16年および2019年がマイナスであったことが影響している。米国株式市場は好調なパフォーマンスを示しており、海外部門が保有する米国株は、2016年の5.8兆ドルから、2019年は8.2兆ドルに増加した。それ故に利益確定の動きも少なくない。資本の吸引役としての米国株式の機能は、これまでのところ限定的と見られる。

2019年の海外部門の保有比率は、15.1%であったが、それを上回るのが家計(37.7%)やミューチュアルファンド(米国の投資信託、21.8%)である。近年、個人による売り越しが続く一方、投資信託が買い越しを続けている。特に50歳未満の若者にこの傾向が強く、確定拠出年金などを通じて、株式の普及が進展していることが窺える。

一方、債券は対外投資が1,498億ドル/年増加する一方で、対内投資が4,439億ドル/年増加した。海外からの米国債買い越し額は恒常的にプラスで推移してきたが、2020年1~5月は異例のマイナスとなっている。3~4月のマイナス幅は大きかったが、5月はやや縮小傾向を見せた。足元の縮小が利回りの変動にともなう一時的なものか、それとも海外から資本を吸引する「米国債モデル」の転換点を示唆するものか、注目されるところであろう。



(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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