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2020.08.04 安全保障

日本から10兆円弱の暗号資産が流出?

中村 孝也

足元では久方ぶりに11,000ドルを回復したビットコイン(BTC)であるが、Crystal Blockchain によると、2020年1~6月はBTCへの資金流入が生じていたようだ。2019年はBTCから資金が流出していたが、1~3月は200万ドル、4~6月が10万ドルの資金が流入していたと見られる。

BTC市場への資金流入は限られたようだが、国を跨いだBTCの移動は活発であったようだ。日本については、1~6月の日本からのBTC流出額は3.3億ドルであった。1~3月が0.9億ドルの流出であったので、4~6月は2.4億ドルの流出であったことになる。2019年通年は11.5億ドルの流出であり、2020年の流出ペースは今のところ2019年を下回りそうな情勢だ。

2013~2019年のBTC流出入は、総額33.2億ドル、年平均4.7億ドル(500億円)の純流出であった。2017年が5.1億ドル、2018年が16.5億ドル、2019年が11.5億ドルの純流出と、特に2017年以降の純流出額の増加が顕著である。年間500億円の純流出というのは、必ずしも大きいものではない。例えば、2013~2019年の平均では、株式では5.2兆円の純流出、債券では1.2兆円の純流入であった。

もっともこれまでのビットコインの流出が限られているのは、暗号資産の投資経験が限られているからかもしれない。マネックス証券は、2017年6月以降、日本の個人投資家の「仮想通貨投資の経験」を調査している。2019年12月時点では、仮想通貨への投資経験があると答えた割合が13.1%と、前回18年12月の11.5%から1.6ポイント上昇した。データ数が少ないため断言は難しいが、暗号資産の普及率が上昇すると、日本からのビットコインの純流出が拡大するようにも見受けられる。

日本でのインターネット普及率、スマートフォン普及率、携帯電話普及率などを参考にすると、現状13%強の暗号資産普及率は、2030年頃には80%程度まで上昇する可能性も考えられるだろう。それに過去3年間の暗号資産普及率と日本からのビットコイン流出入の関係を当てはめると、2030年時点で暗号資産は84~86億ドル、年間9,000億円規模の純流出となっている可能性が考えられるだろう。2017~19年の平均は11億ドルなので、そこからは8倍という規模感である。また、2020~30年の累計では690~850億ドル、7.6~9.4兆円という規模感である。今の金融資産と肩を並べる規模感になっているかもしれない。こういったデジタル資本の流出を止めるために、今の日本に必要なものは、規制強化ではなく、流入を促進することで一方的な流出に歯止めをかけるという「デジタル資本吸収戦略」である。



(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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