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2020.07.13 外交・安全保障

日銀がCLOに続いて警戒感を示す「マルチアセット型投資信託」

中村 孝也

7月3日、日本銀行は金融システムレポート別冊「マルチアセット型の投資信託の特徴とリスク管理上の留意点」を公表した。地域⾦融機関の投資信託保有残⾼は18.2兆円であり、そのうちマルチアセット型投信は3.1兆円と全体の17%を占める(2020年3月末時点)。投資信託全体に占める割合は未だ僅少かつ、個別行庫によるばらつきも⼤きいが、全体として増加してきている。マルチアセット型投信とは、一般の投資信託に比べて国内外のより幅広い投資資産を対象としており、運⽤者の判断による資産の入替え余地が⼤きい商品である。市場環境に応じて、運⽤者が運⽤資産の入替えを行うことで、投資家にとっての価格変動リスクの抑制を図る特徴を有する。

⾦融機関におけるリスク管理上の留意点として、⼤きく次の2点が挙げられている。第一に、一定の資産配分を前提に、過去の運⽤実績からリスクファクターを特定して予兆管理を行うといった従来の管理⼿法では、マルチアセット型投信のリスクを十分に捉えきれない可能性がある。第二に、マルチアセット型投信の多くは、ミドルリスク・ミドルリターンを積極的に狙った商品設計になっていると考えられるが、市場の局⾯等によっては、⽬標とされるリスクとリターンの組み合わせが必ずしも実現しないケースがあり得る点に留意すべきである。

3月13日に公表された「2020年度の考査の実施方針等について」では、金融機関が運用リスクを高めている分野として、投資信託のほか、CLOやバンクローン・ファンドなどの海外クレジット商品、外国債券、私募REIT、仕組債やマルチアセット型の商品などが具体例として言及されている。6月2日に公表した日銀レビュー「本邦金融機関の海外クレジット投融資の動向—日本銀行と金融庁の合同調査を踏まえた整理—」では日系金融機関によるレバレッジド・ローン投資やCLO投資の状況が紹介されたが、今回のレポートはそれに続くものとも見てとれよう。



(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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