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2020.06.29 外交・安全保障

金融市場と実体経済の乖離は過去最高水準、IMFが警鐘

中村 孝也

6月24日、IMFは「国際金融安定性報告書」を公表した。その中では、「大幅な不確実性が蔓延する中、金融市場と実体経済の動向に乖離が生じており、この脆弱性を背景にリスク選好の低下が景気回復の中断につながる恐れがある」としており、最近の資産価格上昇に対する警戒感が示されている。IMFスタッフによるモデルでの評価では、ほとんどの先進国の株式市場と債券市場において市場価格はファンダメンタルに基づく価格を上回っており、その差は過去最高水準に近いとのことである。

リスク資産の価格調整のきっかけとなりうる事象として、(1)投資家が予想している以上に景気後退が厳しくかつ長く続く可能性、(2)ウイルス感染の第2波が起こり、ロックダウン等が再導入される可能性、(3)中央銀行による市場の下支えが市場で期待されているほどの規模で長期には続かず、投資家がリスクテイクの程度を見直し、その結果、リスク資産の価格も変化する可能性、(4)貿易摩擦の再燃が市場心理を損ない、回復がリスクにさらされる恐れ、(5)経済格差の拡大に対する社会不安が世界的に広まり、投資家心理が悪化する可能性、が挙げられている。ただ、投資家の多くはこれらのリスクを一定程度意識していると見られるため、リスク資産価格が大きく調整する時には、ここには挙げられていないようなリスクがきっかけとなっているのかもしれない。

パンデミックによって過去10年に蓄積されてきた他の脆弱性が顕在化する可能性も指摘されている。具体的には、(1)先進国・新興国が共通して抱える問題として、大幅な経済の収縮に伴い借り手(企業・家計)の一部が債務を返済できなくなる可能性、(2)企業破綻の増加によって銀行部門の健全性維持が問われる可能性、(3)影響力を増したノンバンク金融機関・市場がさらなるストレスにさらされる可能性、(4)新興国やフロンティア市場国の中には多額の債務借り換えニーズに直面している国がある可能性、が挙げられている。強力な政策対応により脆弱性の表面化は回避されているが、あくまで先送りであり、リスク自体が解消したわけではないということであろう。



(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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