◇以下は、フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議で議論したことをFISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 2018年春号 −仮想通貨とサイバーセキュリティ』(4月28日発売)の特集『仮想通貨のゆくえと日本経済』でまとめたものの一部である。また、8月3日発売の書籍『ザ・キャズム~今、ビットコインを買う理由~』(フィスコIR取締役COO/フィスコファイナンシャルレビュー編集長 中川博貴著)のダイジェスト版となる。全14回に分けて配信する。
ビットコインは、この世に誕生してからまだ10年も経過していない。昨年は最大20倍以上に膨れ上がったビットコインの価格を見て「中世オランダのチューリップ球根以来のバブル」だと評する声もあったが、これはバブルなのだろうか。ビットコイン投資に機関投資家が本格参入している今、その将来性を悲観するのは早計であろう。貨幣の歴史そのものに立ち返ることで、仮想通貨の本質的価値とその未来、これから日本経済が進むべき道を探る。
仮想通貨は世界に何をもたらすか
「シナリオ」は、危機管理能力を高める
『シナリオプランニング:戦略的思考と意思決定』の著者であるキースヴァン・デル・ハイデン氏によると、シナリオプランニングは「未来の記憶」を行うためのものと位置づけている。
未来のシナリオには、それをつくった人、読んだ人に新しい可能性を示し、視野を大きく広げる働きがある。この記憶によって、重要な変化の因子がストーリーとして理解でき、その変化の兆しが現れたらいつでも行動に移せるように準備できるようになるのだ。
シナリオプランニングはもともと軍隊で活用されてきた。軍人こそ「不確実性への対応」が生死を分かつほど肝要となる立場である。それを応用し、現在では企業の戦略策定のプロセスとして活かされている。
シナリオプランニングとは、「必ず起きること」を予測するものではない。むしろ「起きるか起きないかわからない」未来を複数描き、それに備えようとする方法論である。これは、相場予測をしたがる投資家が、なかなか勝てないのに似ている。シナリオプランニングの神髄は、「未来の値動きを予測するのでなく、現実の値動きに対応する複数の投資プランを練る」投資の基本姿勢にも通じるものがある。
人類の歴史は、食糧と安全を確保する欲求とそれを克服し、実現し続けてきた歩みだった。つまり、何を目標にして、何に取り組めばいいかが明確な時代が長く続いた。しかし、食糧と安全がある程度確保され、それなりの自由と平等と収入を得られるようになると、次に何をすればいいのかがわからなくなる。しかし、目に見えないけれども確実に、物凄い勢いで経済格差は世界規模で拡大している。現状維持は、衰退に等しい。
このように、誰にとっても明らかな目標が溶けて無くなり、にもかかわらず不確実性が増す現代、そしてその延長上にある未来を生き抜くためには、考えうる極端な「シナリオ」をすべて描き出さなければならない。未来に何が起こるか、自分自身を取り巻く環境がどのような状態になり、どのような影響があるか、あらゆる角度から複数のパターンを抽出し、今から体験しておくことが重要である。
仮想通貨の華々しい歴史は、まだスタートを切ったばかり
2017年1月の時点で、仮想通貨全体の時価総額は、約150億ドル(約1兆7000億円)だったが、その1年後には、約8000億ドル(約90兆円)にまで膨れあがっている。つまり、今まさに法定通貨から仮想通貨への大移動が起きているのだ。ただし、世界の金融市場では毎日400兆円以上が飛び交っているのだから、グローバルの尺度において1兆円や90兆円は決して驚くべき額ではない。
今後、さらに桁が違う規模の資金が流入してきたとしても、決しておかしくはない。いつの日か、世界経済の主役に躍り出て、米ドルや日本円を補助的な貨幣へと追いやってしまう日が到来するのかもしれない。仮想通貨には、そう期待させるほどのポテンシャルが秘められているのである。
フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議の主要構成メンバー
シークエッジグループ代表 白井一成
フィスコIR取締役COO 中川博貴
フィスコ取締役 中村孝也
【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】は、フィスコ・エコノミスト、ストラテジスト、アナリストおよびグループ経営者が、世界各国の経済状況や金融マーケットに関するディスカッションを毎週定例で行っているカンファレンス。主要株主であるシークエッジグループ代表の白井氏も含め、外部からの多くの専門家も招聘している。それを元にフィスコの取締役でありアナリストの中村孝也、フィスコIRの取締役COOである中川博貴が内容を取りまとめている。2016年6月より開催しており、これまで、この日本経済シナリオの他にも今後の中国経済、朝鮮半島危機を4つのシナリオに分けて分析し、日本経済にもたらす影響なども考察している。