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2018.08.23 特別寄稿

日本は、仮想通貨金融センターとなれるか
仮想通貨のゆくえと日本経済vol.13

中川 博貴

◇以下は、フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議で議論したことをFISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 2018年春号 −仮想通貨とサイバーセキュリティ』(4月28日発売)の特集『仮想通貨のゆくえと日本経済』でまとめたものの一部である。また、8月3日発売の書籍『ザ・キャズム~今、ビットコインを買う理由~』(フィスコIR取締役COO/フィスコファイナンシャルレビュー編集長 中川博貴著)のダイジェスト版となる。全14回に分けて配信する。



ビットコインは、この世に誕生してからまだ10年も経過していない。2017年に最大20倍以上に膨れ上がったビットコインの価格を見て「中世オランダのチューリップ球根以来のバブル」だと評する声もあったが、これはバブルなのだろうか。ビットコイン投資に機関投資家が本格参入している今、その将来性を悲観するのは早計であろう。貨幣の歴史そのものに立ち返ることで、仮想通貨の本質的価値とその未来、これから日本経済が進むべき道を探る。


仮想通貨は世界に何をもたらすか


日本は「仮想通貨金融センター」となれるか


世界には、輸出できる資源を持たずに貿易で不利な立場に置かれていたところ、「金融立国」の道を選んで花開いた国々がある。シンガポール、香港、スイス、ルクセンブルクなどだ。また、金融業は労働者の賃金を上げやすいため、先進国が推進すべき十分な動機がある産業といえる。

しかも、平日の昼間たった5時間しか空いていない株式市場や、夜間も開いているが週末や祝日にクローズするFX市場と異なり、仮想通貨市場は24時間365日、常に開いているというアドバンテージがある。その分、取引所が収益を上げられるチャンスが増えるわけだ。

これからの日本が活きる道は、国際的な「仮想通貨金融センター」としての役割を探ることにある。従来型の法定通貨を取り扱う金融センターとしての役割が、アジアにおいては香港やシンガポールに先行されているのは間違いない。

非営利の国際機関・世界経済フォーラムが公表している「国際競争力指数」において、算出の基礎となる12項目のうち、「金融市場の成熟度」に注目すると、シンガポールは3位、香港が5位に付けているのに対し、日本は20位と大きく水をあけられている(2016年統計)。

だが、シンガポールはGDPや軍事力の規模が小さく、国際的な影響力を確保するには力不足である。要は「大国」になれないのだ。たしかに、シンガポールは、都市国家として生き残りをかけた徹底的な規制緩和等により、アジアのオフショア・センターとしての地位を築いている。ただし、華僑が多いという国家の成り立ちに加え、地政学的に中国の影響力が高まりやすいことが懸念材料となってきている。都市国家(=小国)であるがゆえに、豊かであっても軍事力が豊富という訳でなく、中国による 政治的侵食を許しやすい。中国の影響力が及ぶということは、西側諸国の富裕層にとって安全な資金の逃避先でなくなってしまう危険性があることを意味する。

東南アジア諸国は中国の意向に逆らえず、中国人の資産移転を受け入れてしまう。シンガポールを除くASEAN諸国で、シンガポールの役割を代替できるところはないだろう。

また、香港は仮想通貨を厳しく規制した中国の影響下にあるため、おおっぴらに「仮想通貨金融センター」を目指すことは難しいのではないかと考えられる。このところ、香港が特別行政区であるとの立場を無視する格好で、中国政府が香港の自治を犯し始めている。中国の金融戦略の一角としては成長を遂げるだろうが、早晩、西側諸国の金融センター(イギリスと近しい関係によるオフショア・センター)としてのポジションから、香港は脱落する可能性が指摘されている。

となると、消去法的に、アジア地域で2番目の経済規模を誇り、日米同盟も含めて軍事力で中国と渡り合える日本のポジションがクローズアップされる。

日本は、アジアで唯一、中国に正面から対抗できる国だ。「大国」としての体面を保てていて、中国の影響力からも独立できている日本は、アジアの、いや世界全体の「仮想通貨金融センター」の地位を目指せるポテンシャルが充分にあると考えられる。少なくとも米国は、日本がその立場を目指すことを妨害しない。将来の日本が経済力を強化し続け、大量の米国債を買い支えていなければ、米国が危機に陥るからだ。


(つづく~「仮想通貨のゆくえと日本経済vol.14 「シナリオ」は危機管理能力を高める【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」~)



フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議の主要構成メンバー
シークエッジグループ代表 白井一成
フィスコIR取締役COO 中川博貴
フィスコ取締役 中村孝也

【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】は、フィスコ・エコノミスト、ストラテジスト、アナリストおよびグループ経営者が、世界各国の経済状況や金融マーケットに関するディスカッションを毎週定例で行っているカンファレンス。主要株主であるシークエッジグループ代表の白井氏も含め、外部からの多くの専門家も招聘している。それを元にフィスコの取締役でありアナリストの中村孝也、フィスコIRの取締役COOである中川博貴が内容を取りまとめている。2016年6月より開催しており、これまで、この日本経済シナリオの他にも今後の中国経済、朝鮮半島危機を4つのシナリオに分けて分析し、日本経済にもたらす影響なども考察している。

中川 博貴

株式会社クシム代表取締役
フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議の設立メンバーとして当時より参画。 公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。 環境省「持続可能性を巡る課題を考慮した投資に関する検討会」委員(2015〜2017)。 IR専門誌「フィスコファイナンシャルレビュー」編集長(2017〜2019)。 著書に「ザ・キャズム 今ビットコインを買う理由」がある。

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