◇以下は、FISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 2018年春号 −仮想通貨とサイバーセキュリティ』(4月28日発売)の特集『仮想通貨のゆくえと日本経済』の一部である。また、8月3日発売予定の書籍『ザ・キャズム~今、ビットコインを買う理由~』(フィスコIR取締役COO/フィスコファイナンシャルレビュー編集長 中川博貴著)のダイジェスト版となる。全14回に分けて配信する。
ビットコインは、この世に誕生してからまだ10年も経過していない。2017年に最大20倍以上に膨れ上がったビットコインの価格を見て「中世オランダのチューリップ球根以来のバブル」だと評する声もあったが、これはバブルなのだろうか。ビットコイン投資に機関投資家が本格参入している今、その将来性を悲観するのは早計であろう。貨幣の歴史そのものに立ち返ることで、仮想通貨の本質的価値とその未来、これから日本経済が進むべき道を探る。
貨幣の歴史と、米国による世界支配
米国を「王」とする世界経済
20世紀初頭から、アメリカ合衆国は自由貿易を推進し、特に小麦やトウモロコシ、大豆、綿花などを大規模に生産して、食糧自給率、農産物自給率の低い国へ積極的に輸出した。ただし、輸出先の国では「米ドルで決済」するよう求めることで、世界のドル需要を自ら創出していった。
第二次世界大戦後のアメリカはIMF(国際通貨基金)を1945年12月に創設し、ブレトン・ウッズ協定として「金1オンス=35ドル」という金本位制のレートに各国の合意を取り付ける。さらに世界銀行を通じて、主に新興国に対して米ドルで経済成長の工業化を支援する貸付けを行った。
こうして基軸通貨としてのドルの地位を盤石にしたアメリカは軍事力を整備し、国力を増強した。自らの政治的、経済的パワーを世界に示し、国際社会のリーダーとして振る舞うようになっていく。
1950年代から60年代にかけて米ドル札を刷れば刷るほど国力が上がっていく状況で、アメリカは世界からシニョレッジを受け取り続けたことになる。
ニクソン・ショックで盤石となった、米国の世界支配
ただ、あまりにも積極的に米ドルを供給し続けたために、しばらくするとアメリカの国際収支は悪化に転じた。シニョレッジの魔力に取り付かれて、通貨を造り続けると、通貨の価値がかえって目減りし、その発行者の社会的信頼までも低下させてしまう。そこで、1971年、米ドルと金の交換を停止する方針転換、通称「ニクソン・ショック」が起きたのである。
その後のアメリカは、欧州や日本、OPEC(石油輸出国機構)加盟国の中央銀行に対して、アメリカ国債を積極的に購入するよう迫った。さらに、アメリカ産の穀物輸入に食料供給を依存していたり、米ドル建ての債務を抱えていたりする国々を「衛星国」とし、各国の資本を手中に収めていった。こうして、ニクソン・ショック以後のアメリカは、世界中の国々にとって「債務が大きすぎて、破綻させられない国」となったのである。その唯一無二の立場を背景に、「米ドルこそが世界の基軸通貨」であるとの存在感を改めて示した。
(つづく~「仮想通貨のゆくえと日本経済vol.5投資家のモメンタムは底堅い【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」~)
フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議の主要構成メンバー
シークエッジグループ代表 白井一成
フィスコIR取締役COO 中川博貴
フィスコ取締役 中村孝也
【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】は、フィスコ・エコノミスト、ストラテジスト、アナリストおよびグループ経営者が、世界各国の経済状況や金融マーケットに関するディスカッションを毎週定例で行っているカンファレンス。主要株主であるシークエッジグループ代表の白井氏も含め、外部からの多くの専門家も招聘している。それを元にフィスコの取締役でありアナリストの中村孝也、フィスコIRの取締役COOである中川博貴が内容を取りまとめている。2016年6月より開催しており、これまで、この日本経済シナリオの他にも今後の中国経済、朝鮮半島危機を4つのシナリオに分けて分析し、日本経済にもたらす影響なども考察している。