日本経済は1990年代のバブル崩壊後、崩壊前の水準に回復することなく伸び悩みに直面している。他の先進国に先駆ける形で少子高齢化による労働人口の減少が進み、国内需要は縮小傾向にある。
このような状況下において今後の日本経済に大きな転換点となる可能性があるのは、きたるべき「第4次産業革命」だ。この技術革新の波に国家としてどのように対処するかが、今後の日本経済の行く末を大きく左右することになろう。
本シリーズでは、日本経済が取り得る未来について考察し、導入とともに「ゆでがえる」「格差不況」「シェアリング」「黄金期」という4つのシナリオを紹介し、日本経済が取り得る未来と第4次産業革命が経済面に与えるインパクトを考察したい。各シナリオはそれぞれ数回にわたってご説明してゆく。
本稿ではシナリオ2「格差不況」中編をご紹介する(※)。格差不況シナリオは、計3回にわたってご説明する。
※導入と、シナリオ1「ゆでがえる」は、別途「日本経済シナリオ:第4次産業革命の与えるインパクトとは【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」、「日本経済シナリオ1:「ゆでがえる」前編【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」、「日本経済シナリオ1:「ゆでがえる」後編【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」参照。
2030年にはAI技術やロボットによる機械代替は60%以上に
ホワイトカラーの労働生産性の向上や業務標準化が追及されていないことから高度な専門技術を持たない労働者から順に、AI技術やロボットに代替されていく。野村総合研究所(NRI)の未来創発センターが国内の601種類の職業を対象としたAIやロボットなどで代替される確率のデータをベースにした試算によると、日本の人工知能やロボットによって代替される可能性が高い労働人口の割合は49%と、他の先進国と比較しても高い水準となっている。
また、単純労働にとどまらず、2030年には経理や貿易事務員、銀行窓口などホワイトカラーといわれる職業もAIやロボットなどへの機械代替率が60%以上になるという。日経ビッグデータが前述の「国内の601種類の職業を対象としたAIやロボットなどで代替される確率」のデータを基に集計および分析したところ、代替可能率が100%に近い総合事務員数は国内に300万人以上、会計事務従事者は150万人以上いることが判明した。
今後、人材に頼らずにサービスを展開する企業組織体が誕生した場合、雇用代替数はさらに増加していくとの予測は的外れではない。
グローバル競争の負け組となった日本企業は小作人化する
ブロックチェーンやAIの活用には雇用代替効果があるだけではない。雇用を多く抱えている日本企業の大半が大量消費社会に適合するために大量生産が可能なオペレーションの大部分を自前化しているのに対して、新興企業は潤沢な資金を武器に、すでに技術的優位があるような企業をM&Aしたり、業務提携にてオペレーション機能を補強する。その結果、前者は後者に、オペレーション上の競争優位性を築きにくい。
一方、新興企業による高い時価総額に支えられた不当な競争原理が様々な業界で起こり始めている。例えばEVとエネルギー革命への期待感から、自動車業界ではテスラモーターズが台頭。また、シェアリングエコノミーの到来をけん引するウーバーの出現で、タクシー業界は再編されていくだろう。顧客利便性の最大化を狙うアマゾンは次世代の小売業として成長していく。いずれの企業もこれまでの競争ルールを自らの有利なルールにかえて、圧倒的な資金調達力を武器に高いプレゼンスを生み出している。
新興企業の雄たちが、世界の覇権を握るリーディングカンパニーとなるか。圧倒的多数の負け組の上に立つ勝者が生まれる。環境の変化に応じてダイナミックに経営戦略をデザインすることができなかった多くの日本企業は、このグローバル競争に敗れることになるだろう。そして、既存の産業ではシェアの奪い合いが過熱する。ビジネスモデルのイノベーションを興さなかった場合、日本企業の大半が新興企業の下請け、もしくは小作人化する。
日銀は信用創造を維持も、日銀券の信用力は低下へ
ブロックチェーンやAI、そしてロボットといった先進技術による労働代替効果、こうした技術を活かしてビジネスモデルのイノベーションを起こし、世界の覇権を握る新興企業と圧倒的多数の負け組企業の誕生で職を失う者が急増。慢性的に需要不足の状態が続き、デフレ圧力は払拭されないに違いない。このため、2%の物価上昇を目指す日本銀行(以下、日銀)の非伝統的金融政策は継続せざるを得なくなる。
これまでも日銀は1999年2月のゼロ金利政策を境に、16年9月には長期金利操作付き量的・金融緩和を開始。10年国債利回りの0%水準での操作や日銀当座預金の一部にマイナス金利も導入してきた。さらに、物価目標を達成するまで多様な資産を購入し、マネタリーベースを増やし続けてきた。
このような景気刺激策を続けるには限界があるが、他に景気を下支えする術が乏しい中で、日銀はこれからも信用創造を維持せざるをえない。結果、過剰な流動性が株・債券市場へ向かい富の偏在を後押し、日本国債の信用力が低下した際に日銀のバランスシートにおける資産価値の毀損リスクが増大していき、資産の信用力を裏付けにして発行される日銀券の信用力も失われていく。
(つづく~「日本経済シナリオ2:「格差不況」 後編【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」~)
フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議の主要構成メンバー
シークエッジグループ代表 白井一成
フィスコIR取締役COO 中川博貴
フィスコ取締役 中村孝也
【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】は、フィスコ・エコノミスト、ストラテジスト、アナリストおよびグループ経営者が、世界各国の経済状況や金融マーケットに関するディスカッションを毎週定例で行っているカンファレンス。主要株主であるシークエッジグループ代表の白井氏も含め、外部からの多くの専門家も招聘している。それを元にフィスコの取締役でありアナリストの中村孝也、フィスコIRの取締役COOである中川博貴が内容を取りまとめている。2016年6月より開催しており、これまで、この日本経済シナリオの他にも今後の中国経済、朝鮮半島危機を4つのシナリオに分けて分析し、日本経済にもたらす影響なども考察している。今回の日本経済に関するレポートは、フィスコ監修・実業之日本社刊の雑誌「FISCO株・企業報 2017年冬号」の大特集「日本経済シナリオ」に掲載されているものを一部抜粋した。