◇以下は、FISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 2018年春号 −仮想通貨とサイバーセキュリティ 』(4月28日発売)の巻頭特集「一橋大学名誉教授/早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 野口 悠紀雄氏インタビュー」の一部である。全5回に分けて配信する。
日本を代表する金融・経済学者であり、著名な知識人でもある野口悠紀雄氏は2014年に著した啓蒙書『仮想通貨革命』で、仮想通貨に潜む巨大な可能性を指摘した。以来、同氏の仮想通貨に込められた熱い思いと冷徹な分析は、日本の投資関係者に大きな影響を与え続けている。今回は、昨年来の仮想通貨を取り巻く世界の動きを振り返るとともに、これからの仮想通貨の課題や進むべき方向について同氏の率直な考えをうかがった。
市場価値増大のパラドックス ビットコインの本来価値を見失うな!
―昨年、ビットコインを中心として仮想通貨の市場価値が急騰しました。仮想通貨とその背景をなす技術に対する追い風が吹いた1年だったかと思うのですが、いかがでしょうか。
私は追い風ではなく、逆風だと思います。価格が上がったことが逆風だったと思っています。なぜかといいますと、仮想通貨、とりわけビットコインの価格が大きく上昇したわけですが、それによって何が起こったかというと、これは大変重要な問題なのですが、ビットコインの送金手数料が上がってしまった。私が逆風だと言っているのは、そのことです。
ビットコインの場合、送金手数料はビットコイン建てと決まっています。したがって、ビットコインの価格が上昇すると、円やドルで表示した送金手数料が上がってしまうわけです。
これまでビットコインの重要な役割は安い手数料で世界中のどこにでも簡単に送金ができること、それがまさにビットコインの利用価値であると考えられてきました。去年の初め頃までは、ゼロに近い手数料で送ることができたのですが、その後ビットコインの価格が急上昇したために、その条件が大きく変わってしまった。そして今では、送金に要する手数料が銀行の口座振替よりもかなり高くなってしまっている。ということは、ビットコインの利用価値が著しく減殺されたということです。
―一方、価格の乱高下が市場や一般店舗での普及の障害になりかねないという指摘もありますが?
乱高下の問題は昔からありました。もともとビットコインは価格が変動するように作ってあるわけですから、あって当然ともいえます。したがって、それに対処する方法がいろいろ考えられてきました。
たとえば去年の初めにビックカメラがビットコインの決済を導入しましたが、そのときに用いられた方法は、代金をビットコインで受け取ったら即座に日本円に替えてしまうということです。受け取ったビットコインをすぐに現実通貨に替えることによって、価格の乱高下の影響を防ぐということは、これまでにもよく行われてきました。
乱高下に対処する方法としては、そのほかにも、先物取引を利用することもあります。実際、アメリカでは去年の12月に仮想通貨の先物取引が始まりました。
つまり、乱高下の問題については、これまでも対策は取られてきたのです。ですから私は、価格の乱高下の問題は、ビットコインの普及にとっては、それほど本質的な問題ではないのだろうと思っています。
(つづく~「一橋大学名誉教授 野口悠紀雄氏インタビューvol.2 日本の仮想通貨制度の課題【フィスコ 株・企業報】」~)