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2020.05.28 特別寄稿

デジタル人民元、リブラ、CBDCの未来予想図 vol.2
野口悠紀雄氏インタビュー

野口 悠紀雄

◇以下は、FISCO監修の投資情報誌『FISCO 株・企業報 Vol.9 新型コロナウイルスとデジタル人民元の野望 ~中国・衝撃の戦略~』(4月21日発売)の特集「野口悠紀雄氏インタビュー」の一部である。全3回に分けて配信する。
文:清水 友樹/撮影:渡邉 茂樹



2020年内にはデジタル人民元が発行されるとの観測もあるなか、フェイスブックのリブラは、各国政府の激しい反発にあった。今後、デジタル人民元を含めた中央銀行デジタル通貨(CBDC)には、どんな未来が待っているのか。


報道でも目にすることが増えたCBDCには大きく分けて2種類ある


ここ最近、日本の報道でも中央銀行デジタル通貨(CBDC)という言葉を見ることが増えている。「デジタル人民元」もそのひとつだ。ここで「CBDC」について、簡単に説明したい。

みなさんは、CBDCを「1万円札がデジタルに置き換わり、電子マネーのように使えるもの」と思っていないだろうか。それは正解でもあり、不正解でもある。ひとくちにCBDCといっても、大きく2種類ある。それぞれ「ホールセール型」、「リテイル型」と呼ばれている。

この違いについて、日本を例に簡単に説明しよう。まず、日本銀行の債務には、「民間銀行が日銀に持つ当座預金」と「日銀券」の2つがある。

日銀が運営する「日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット)」と呼ばれる仕組みを使って、銀行と日銀「当座預金」間の資金を振り替えている。このやりとりをブロックチェーンを用いる分散台帳方式に切り替えることを、「ホールセール型」と呼んでいる。

日本銀行がBIS(国際決済銀行)、ECB(欧州中央銀行)、イングランド銀行などと共同でCBDCの研究を始めたことが報道されているが、それは「ホールセール型」の話だ。この場合は、日本銀行と銀行のやりとりが変わるだけで、私たちが日常生活で使うようになるわけではない。

それに対して、おそらくみなさんが想像するような日銀券の一部あるいはすべてをデジタル通貨にすることを「リテイル型」と呼んでいる。現時点では、日本のCBDCは、「ホールセール型」だけに限った話だ。この違いを知らないまま、CBDCの話をしても混乱することになる。


デジタル人民元がどのようなかたちになるかはまだはっきりしていない


ではデジタル人民元はどちらなのか。2020年3月時点では、はっきりしていない。

もし、「ホールセール型」なら、個人や企業はアリペイやウィーチャットペイ(WechatPay:微信支付)を使う。そしてこれらの間の資金決済を中国人民銀行のネットワークが行うという形になるだろう。

「リテイル型」なら、個人や企業もデジタル人民元を使うことになるが、その場合は企業や個人が中国人民銀行から直接、デジタル人民元を購入するのでなく、まず中国人民銀行が金融機関の当座預金をデジタル人民元に替え、つぎに金融機関が企業や個人の預金をデジタル人民元と交換するという仕組みになる可能性が高い。

もし「リテイル型」になっても、アリペイなどは表面上、何も変わらない。ただ、バックグランドの処理が変わり、政府がすべての取引を把握する。国民は経済活動に関するプライバシーを失うことになる。

中国人民銀行は、2018年6月から日本の「全銀ネット」と同じような仕組みの「網聯(ワンリェン)」の運用を開始したが、アリペイやウィーチャットペイなど決済業務も、すべてここを通じて処理されるようになった。これもデジタル人民元導入のための準備と考えられる。


(つづく~「野口悠紀雄氏インタビュー デジタル人民元、リブラ、CBDCの未来予想図vol.3【フィスコ 株・企業報】」~)

野口 悠紀雄

一橋大学 名誉教授
1940年、東京に生まれ。 1963年、東京大学工学部卒業。1964年、大蔵省入省。1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2017年9月より早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問、一橋大学名誉教授。著書に『情報の経済理論』(東洋経済新報社)『土地の経済学』、『バブルの経済学』(日本経済新聞社)、『ブロックチェーン革命』(日本経済新聞出版社)など多数。近著に、『平成はなぜ失敗したのか』(幻冬舎)、『「超」AI整理法』(KADOKAWA)、『経済データ分析講座』(ダイヤモンド社)、『「超」現役論』(NHK出版)、『だから古典は面白い』(幻冬舎新書)、『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社)などがある。

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