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2020.05.08 安全保障

新型コロナウイルスのコストベネフィット分析

中村 孝也

5月4日に開催された政府専門家会議の会見で、尾身副座長は「専門家会議としては再三再四、我々の意見と経済のプロからの提言の両方を見た上で最終的な判断をして下さいと、政府に申し上げてきた」と言及した。

新型コロナウイルスの経済的影響について、海外では多種多様な分析が進められている。ミネアポリス連銀の「Health versus Wealth: On the Distributional Effects of Controlling a Pandemic」では、通常の若年層、ロックダウンの影響を受ける若年層、高齢層に分け、各層の効用を最大化するようなロックダウン政策を分析している。3/12以降にロックダウンで基本再生産数が3から0.72に落ちる代わりに全雇用の27.5%が喪失すると仮定し、さらに病床制約を考慮したSIRモデルで最適経路を計算した結果、現状のロックダウンは経済価値を最大化しておらず、高齢層と比べて若年層の損失が大きい点を指摘した。被害を最小化するためには、4月12日にロックダウンの50%を解除し、7月31日まで継続するのが最適との結論を導き出している。

一方、New Zealand Initiativeの「Quantifying the wellbeing costs of COVID-19」では、COVID-19による死亡者を救うためのコストベネフィットを試算している。33,600人の死亡者(感染拡大が放置された場合に保険省が予想する死者数)の場合、(直接的な)健康関連のパンデミックコストの合計は194億ドル(GDPの6.1%)であるが、12,600人の死亡者(感染拡大が抑制された場合の予想死者数)の場合、パンデミックコストの合計は118億ドル(GDPの3.7%)であると試算し、財政政策の妥当な規模に関する一つの視座を提供している。



(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。