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2020.05.07 安全保障

新型コロナウイルスとBCG仮説

中村 孝也

新型コロナウイルスによる日本人の致死率、感染率が低い要因として、BCGワクチンの有効性が注目されている。4月23日にMedRxivに投稿されたShivendu Shivenduらによる「Is there evidence that BCG vaccination has non-specific protective effects for COVID 19 infections or is it an illusion created by lack of testing?」(プレプリント)では、「BCGワクチン接種がCOVID19疾患の発症に与える影響」に関する最近の7つの研究結果がレビューされている。

「BCG仮説」に肯定的な研究は、国家予防接種プログラムでBCGをカバーしている国では、症例数と死亡率が大幅に低いことを示す十分な経験的証拠があると主張している。Shet et al、Berg et al、Hegarty et al、Miller et alによる分析に加え、「BCGワクチンは新型コロナウイルスに有効か?【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」で紹介した「Association of BCG vaccination policy with prevalence and mortality of COVID-19」もその一つである。

一方、「BCG仮説」に否定的なものもある。冒頭のペーパーは、独自の研究部分で、検査が考慮されていない場合、COVID 19に起因する死亡率と国の予防接種プログラムに含まれている国のBCGワクチン接種との関係については他の研究と同様の結果が得られるが、検査の次元を追加すればこの関係はなくなるとした。

また、香港科技大学の川口氏は、BCG開始年、終了年といった境界では、症例数の非連続な低下は見られなかったとして、BCG仮説は支持されないとの見方を主張している。愛知学院大学の浅原氏は、ダイヤモンド・プリンセス船内と世界各国の国毎の比較解析をすることで、感染症がその国に広がり始めたタイミングで補正をかけると、先行研究の大きな効果は消えるか、かなり減少すると主張している。臨床研究の結果が出ていない中での仮説提唱にも否定的な見方が示されている。



(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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