我が国の危機管理、元統合幕僚長の岩崎氏「比較的高いレベルにあるが改善すべき点も多々ある」(1)

2020.04.06

我が国の危機管理、元統合幕僚長の岩崎氏「比較的高いレベルにあるが改善すべき点も多々ある」(1)
Two U.S. Air Force B-1B Lancer bombers fly from Andersen Air Force Base, Guam, for a 10-hour mission, with an escort of a pair of Japan Self-Defense Forces F-2 fighter jets in the vicinity of Kyushu, Japan August 8, 2017. U.S. Air Force/Handout via REUTERS. ATTENTION EDITORS - THIS IMAGE WAS PROVIDED BY A THIRD PARTY

私は、自衛官として40年に亘って我が国の国防の一端を担ってきた。多くの自衛官がそうであるように、私は、諸先輩を含む多くの方々から自衛隊の事や危機管理、安全保障等、幅広い分野に及ぶ貴重なご指導を賜るとともに、防大や自衛隊内の各種学校(幹部学校、統幕学校、防衛研究所等)、そして米空軍大学等で学んできた。

“武漢ウイルス”が世界に巻き起こしたパンデミック(感染症)現象を機に、多くの日本人が再度「危機管理」の重要性を痛感している事と思う。この「危機管理」は、危機に直面すれば誰でも最重要と感ずるものの、事が過ぎ去った後「喉元過ぎれば云々」になりがちである。通常は滅多に起こらない事だからである。これまでに我が国は、数限りない危機に際し、試行錯誤しながら、それをどうにか乗り越えてきた。それらも踏まえて、今回は我が国の危機管理能力のレベルについて私見を述べたいと思う。

今回の“武漢ウイルス”が我が国で拡大し始めた特に2月中旬以降、至る所で危機管理が叫ばれてきている。一般的に人々は危機に直面した時、危機管理の重要性や有難さを実感する。しかし、平穏無事な時間が長く続くと、危機管理に疎くなり、ある時には「無駄な税金をそんなことに使えない。」と考えてしまう。私は岩手県の出身であるが、三陸海岸一帯には「津波てんでんこ」なる合言葉がある。これは数々の津波の経験から「津波がきたらでんでんばらばらに、まず逃げろ」との教えである。三陸海岸はリアス式海岸が多くある。沖で比較的小さな波でも、港に近づくに従って狭くなっていることから波が異常に高くなり、大津波になってしまう特性がある。三陸海岸ではこれまでに何回も大津波の被害を受けている。この様な教訓で先ほどの「津波てんでんこ」なる言葉が伝承されてきた。しかし、いつしか平穏無事な日々が続くと、つい便利さや効率を考えてしまい、以前津波で流された場所に戻って再び住み着いてしまう。大きな地震があったら、全てを捨てて、兎に角高台を目指し避難すべきなのに「家に戻ったり」、「家族を迎えに行ったり」して犠牲になった人達も多かった。人間的な信条としては痛いほど理解できるものの、危機管理上は問題があると言わざるを得ない。

最初に「危機管理とは?」から述べたい。一般的に「危機」とは「大変な事態」の事であり、地震・津波・川の氾濫・大雪等の自然災害、大停電、食料・エネルギー不足、そして今回の様なパンデミック、経済の混乱、ハイジャック・テロリズム、そして戦争等々の事である。いづれにしても通常ではない、普通起こらない様な異常な状態の事である。次に「管理」とは、管轄し処理する事、よい状態を保つように処置する事である。つまり、こちらが意図したとおりに制御可能な状態にすることである。

次に、「危機管理の原則(基本)」について考えてみよう。世間では、危機管理の多くの専門家の方々が、いろいろな表現をしているが、ほぼ正しい事を言われていると思う。私は拙い経験から以下のように考えている。

第1に「情報収集体制の確立」である。普段からあらゆる情報を集める体制と態勢を構築しておくことである。いかに優秀なリーダーを擁き、スタッフを抱えようが、情報がなければ適正な判断が出来ない。

第2に事に臨んでは「最悪の事態を想定」し、「全力で対応」することである。何か不測事態が起こった場合には、現場が混乱し、正確な状況把握を出来ない場合が多い。この為、最悪を想定し、あらゆる可能性を想定して対応を始めれば、いかなる事態にも応ずることが可能となる。この際、先入観や楽観論は禁物であり、当初は悲観論サイドに立つべきである。そしてその後、細部の状況が確認でき次第、その危機状況に見合う適切な規模と程度で対応すれば良い。

第3に「命令・指示を簡明に発出」することが重要である。現場はかなり混乱していることが考えられる。この為、命令・指示は出来るだけ分かり易く、かつ現場指揮官に裁量の余地を与えた内容とすべきである。決して現場指揮官を縛ってはいけない。

第4に「全責任は組織のリーダーが負い、事態対応は現場指揮官に任せる」事である。一番状況が分かっているのは現場である。状況は刻々と変化する。現場指揮官はその道のプロであり、最新の状況を理解している。中央は現場指揮官を信頼することが重要であり、妄りに中央から遠隔操作的運用をしてはいけない。福島第1原発の事故は、現場指揮官(所長)、東電本社、官邸の間で必ずしも信頼関係が構築されておらず、最新状況を知らない本社や官邸が、現場指揮官(所長)の裁量を奪ったことが対応を遅らせる事になったいい例であろう。

第5に「対応が始まった以降の情報収集の在り方が重要」である。現場は刻一刻と状況が変化していく。それに合わせた情報収集・報告が必要である。この際、よくある事が、第1報と第2報、第3報の内容が違ってくることがある。これを聞いた指揮官がその内容に拘ったり、怒ったりしてはいけない。もしこのような対応をすれば、現場は確認・確認に追われ、適時の報告がなされないからである。

第6は「普段からの教育・訓練、人材育成」、そして各種事態の「基本計画の策定と訓練」である。緊急事態には誰しもがパニックに陥り易い。パニック状態では判断力・行動力が極端に限定されてしまう。冷静さを保つことが出来れば、個人の、そして組織の持てる能力を如何なく発揮できる。その為には普段から教育と訓練が重要である。

これらを踏まえて、我が国の危機管理レベルが他国と比較しどの程度なのかを考えてみたい。結論から申し上げると、比較的高いレベルにあると言ってもいい。しかし、満足すべきレベルかと問われれば、まだまだ改善すべき事項・分野が多々あると感じている。


~『我が国の危機管理、元統合幕僚長の岩崎氏「比較的高いレベルにあるが改善すべき点も多々ある」(2)』へ続く~



岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。



写真:U.S. Air Force/ロイター/アフロ


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