COVID-19の行く末、元統合幕僚長の岩崎氏「中国の将来に暗雲、安全保障上の大問題」

2020.03.12

私は「新型コロナウイルスCOVID-19、わが国は中国の不安定化に備えるべき」において、今回のCOVID-19は中国に劇的な変化をもたらすと書いた。何かの帰結を希望している訳でないものの、その方向にひたすら走り続けている感がある。

中国の感染者は8万人を超え、死者は3千人を超えていて、なお留まるところを知らない。中国政府は封じ込めに成功したとのコメントを出しているものの、中国自身も全世界も全く信じていないだろう。中国自体が信用ならない国であることが今回証明されたからである。

今回の事態で中国の将来に暗雲立ち込めてきているものの、全世界の危機でもある。韓国はほぼ封じ込めに失敗し、イタリアも全土での移動が禁止された。米国も徐々に感染者が増加してきている。

私が最も恐れていることは、経済的な危機が安全保障に及ぼす影響である。中国の経済は壊滅的な損害を受け、このままでは難民も出かねない。難民は周辺国へ逃げ込むだろう。過去に世界が経験したベトナムのボートピープルを思い出して欲しい。中国と陸続きの周辺国はベトナム、ラオス、ミャンマー等の東南アジアであり、海を隔てて比較的近い台湾であり、そして日本である(中国人は、かなりの事がない限り、韓国へ行くことを選ばない)。安全保障上の大問題である。

また、韓国の経済も同様にかなりの被害を受けることが容易に想定される。韓国政府は、日本による韓国から入国制限措置に、意味のない対抗措置をとった。経済が益々ジリ貧化していくことは確実である。また、韓国が混乱すると、先ほどの難民問題に加え、北朝鮮との関係も心配される。北朝鮮もCOVID-19によって相当の被害を蒙っているとの報道がある(実態は不明である)ものの、韓国が不安定になれば必ず行動を起こすことが想定される。今回の2月28日、3月2日、そして3月9日の何らかの飛翔体の発射(=ミサイル)は、明らかに韓国に対する揺さぶりである。当ミサイルは射程が数10Km~250Km程度と想定され、我が国にも届かない距離である。米韓は2月27日、今年の米韓演習の実施を中止することを発表した。この直後からの発射訓練でもある。

米国にとってはどうであろうか?米国感染者数の今後の動静は不透明であるものの、米国はこの様な事態においてCDC(疾病対策センター)が一元的に仕切るので、比較的大きな混乱はないと考えられる。今のところ感染者数もそれほど多くない。ただし、経済は明らかに落ち込むことになろう。今年は米国の大統領選挙の年である。トランプ人気には根強いものがあるが、これは彼の主義・信条と言うより好調な経済のお陰という面もあり、極めて低い非雇用率がそれを支えている。今回のCOVID-19蔓延で中国経済が失速すれば、米国にもその影響が波及し、トランプ政権の支持率が低下することも考えられる。前回の大統領選において、トランプ大統領は全得票数でヒラリー・クリントンに負けていた。トランプ勝利は複雑な選挙制度による勝利であって、トランプ支持者が多数という訳ではない。今回の選挙では、岩盤と言われたトランプ支持層が、経済状況によって反旗をひるがえす可能性も出てくる。民主党の候補者選びも佳境に入っているが、現状を見れば、バイデン候補に絞られていきそうな印象である(脆弱性も秘めているが)。トランプ大統領は果たして民主党の候補に勝てるのか?今年の最大の懸案事項である。トランプ大統領が選挙戦に勝利しても、負けることがあっても、いづれにしても大きな転換点である。世界が不安定になることが懸念される。

そして最後に、我が国の状況である。今後の感染スピードは予測し難いものの、現段階にいて私は、我が国の政府が全力で取り組んでいること、また我が国の国民性等から、諸外国と比べれば感染もしくは感染が深刻化する率が比較的軽微でないかと考えている。但し、感染による直接の被害よりも、そのことが経済へ複層的に波及することによる影響が大きいものと考える。安倍総理の人気も経済に裏付けされていることを考慮しておく必要がある。安倍総理においては東京オリンピック・パラリンピック開催の可否、通常国会後の都知事選、自民党党首の4選など簡単でない課題も多い。全てはCOVID-19対応如何にかかっている。緊急事態対応は指揮官の責務である。いかに努力しようが、結果が全てである。現在の対応が上手くいき、東京オリンピック・パラリンピックが予定通り開催され、我が国が比較的小さな被害で乗り越えることが出来ることを祈念してやまない。(令和2.3.11)



岩崎茂(いわさき・しげる)
1953年、岩手県生まれ。防衛大学校卒業後、航空自衛隊に入隊。2010年に第31代航空幕僚長就任。2012年に第4代統合幕僚長に就任。2014年に退官後、ANAホールディングスの顧問(現職)に。



写真:Featurechina/アフロ


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