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2020.02.03 安全保障

コロナの日本感染者数2月中旬で4,100人、SARSより甚大な影響の可能性も

実業之日本フォーラム編集部

新型コロナウイルスの発症者が日本でも確認されており、感染が拡大する傾向を見せている。コロナウイルスは風邪のウイルスであり、今回のものは新型でこそあるが、風邪をひいて免疫を既に持っている人が発症しないというようなケースも見られるようである。また、感染力が高まるということは毒性が弱まっているということが一般的な考え方であり、潜在的に無症状感染症や風邪のような軽症者がカウントされず、致死率が高めに出ている可能性はある。ただし、中国で多くの死者が出ていることは事実であり、武漢の封鎖や周辺国による入国制限などにより、経済活動に影響が出ていることも事実である。マーケットも波乱含みの動きとなっている。日本におけるその影響は、気温や湿度が変わる5月頃まで長引くという見方も出ている。

投資家は経済の損失をSARS発生時と比較して読み取ろうとしている。当時も経済損失は甚大であり、株価は世界的に約10%の調整を余儀なくされ、日本も同程度の調整を余儀なくされた (アメリカのイラク侵攻の影響もあって一概にSARSの影響だけとは言い難いが)。日経平均の下値22,000円などは、この数値を元にしているものと思われる。

致死率の違いから影響を軽く見る考え方もあろう。ただし、重要なのは致死率の違いだけでなく、当時と比較したグローバル・バリューチェーン(GVC)の進展度合いとも考えられる。世界の工場となった中国の輸出入額は、SARS前後から比較しても6倍程度まで拡大、足もとで4兆ドルを上回る。その中国では、既に人の移動も制約され、中国からのマスクの輸出にも影響が出始めたようだ。中国は自動車、自動車部品の主要な製造ハブになっており、サプライチェーンの寸断から、中国全体で生産が滞る可能性も報じられている。SARSの期間が2002年11月から2003年7月、今回が1月から5月までで半分であったとしても、影響はSARSの時より甚大である可能性があろう。

また、SARSとの違いは、日本が感染拡大の当事国になる可能性が高まっているということだ。外需はもちろん、内需もダメージを受けることになる。下記の試算はあくまでも武漢を参考とした数値であるが、その前提で計算してもSARSと比較した死者数を上回る。SARS終息後に様々な経済的損失の試算が出ており、エコノミストのリー・ジョンファ氏とワーウィック・マッキビン氏が発表した論文では、2003年のSARSによる経済的損失は400億ドルとされている。インバウンド需要の減速などにより、日本のGDP成長率は0.1~0.5%程度の悪影響を受ける可能性が報じられているが、消費が停滞すれば内需への深刻なダメージも否定できず、景気および株価への悪影響は既述の数値を上回る可能性もあろう。

また、サプライチェーンへの悪影響で、思い起こされるのは東日本大震災である。当時はマイコン半導体工場の被災によって、国内自動車生産が甚大な悪影響を受けた。また、福島原発のメルトダウンによって、放射性物質の放出への懸念が高まり、関東圏からの人の移動が相次いだ。もちろん放射性物質とコロナウイルスを比べるべくもないが、「見えない」点は共通している。日本の医療レベルは高く、致死率は低下しよう。しかし、インフルエンザと同時に流行し急増する感染者の数が病院のキャパシティを超えた場合には、医療を受けることができない感染者が街に溢れる可能性も考えられるだろう。


前提


・武漢からの引き上げ飛行機206名のうち、感染者は4名ということは、武漢市の感染率は1.94 %(海鮮市場に日本人はあまり行かないことを考えると、武漢人の感染率はもっと高い可能性あり)。
・感染者の致死率は2~3%(武漢は4~5%)。
・基本再生産数(一人が何人にうつすか:1.4~3)。
・今年の春節時における中国人の日本への旅行者は100万人と予想されていた(昨年度実績は70万人)。
・昨年の春節期間における武漢市からの海外渡航者は6.7万人。
・中国人の人気海外渡航先のN0.2は日本。
・1月27日から中国人団体旅行は禁止。


春節前後における武漢から日本への渡航者推計


・今年の武漢から日本への渡航者は{6.7万人×(100万人÷70万人)}=9.6万人。
・海外渡航者の日本割合を仮に10%とすると、今年の武漢人による日本渡航者は0.96万人。
・感染率が1.94%とすると186人の感染者が日本に入国したと考えられる(海外旅行禁止によってどのぐらい減るかは考慮していない)。


潜伏期間後(2月中旬付近)の感染者数推計


・1月27日までに感染者186人が国内で感染させたとすると410人(基本再生算数は1.4~3の平均2.2で試算)の日本国内感染者が発生。
・感染者は1週間で10倍以上の約4,100人になる可能性がある(中国の実績を参考)。


武漢市の感染率の検算


武漢市の人口は1,100万人であり、感染率が1.45%とすると想定感染者は159,500人になる。なお、米英の研究チームは今年1月22日の時点において武漢だけで14,464人が感染しており、実際の武漢の患者数を1月29日に105,077人(少なく見積もって46,635人、多く見積もって185,412人)に達するだろうという見方を示している。

実業之日本フォーラム編集部

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