深夜の軍事パレードが意味するもの-北朝鮮建国73周年軍事パレード-

深夜の軍事パレードが意味するもの-北朝鮮建国73周年軍事パレード-
This image released on February 8, 2018, by the North Korean Official News Service (KCNA), shows North Korean leader Kim Jong Un watching on as troops marched through Kim Il Sung Square in a show of military might on the eve of the 2018 Winter Olympics in Pyeongchang, South Korea. Photo by KCNA/UPI

2021年9月9日付北朝鮮労働新聞は、建国73周年を記念し、民間及び安全武力閲兵式を行ったと伝えている。同時に公開された73枚の写真で軍事パレードの様子が確認できる。米国ジョンホプキンス大学の北朝鮮専門分析サイト「38North」は、9月2日のツイッターで、衛星写真を解析し、「平壌近傍の美林(ミリム)飛行場に軍人の隊列が確認される。このような準備は通常パレードの1~2か月前に確認されることから、10月のパレードの準備と推測される」、と伝えていた。今回のパレードは、その準備期間が10日前後と異例の短さであったことに加え、いくつかの注目点がある。それらを分析することにより、北朝鮮がかかえている問題意識及び今後の動向を占ってみたい。

第一に指摘できるのは、なぜ建国73周年という年に軍事パレードを実施したかという点である。次に、なぜ「労農赤衛隊」がパレードの中心であったかという点である。そして最後に、なぜ深夜の時間帯を使用してパレードを実施したかという点である。

北朝鮮は、5または10周年に記念行事を行うのが通例である。建国記念日に関しても、70周年は、中国から栗戦書全人代常務委員の参加を得て、大規模な軍事パレードを実施している。本パレードでは、対艦ミサイルや対空ミサイルと推定されるミサイルを披露しているが、ICBM(大陸間弾道ミサイル)やSLBM(潜水艦搭載弾道ミサイル)といった戦略兵器は登場せず、北朝鮮の核開発を懸念する中国への一定の配慮を示している。71及び72周年には軍事パレードは実施されていない。

なぜ73周年という中途半端な年に軍事パレードを実施したかは、二番目の疑問点である、なぜ労農赤衛隊であったかとも関連する。

労農赤衛隊は、18~60歳の男性及び未婚女性からなる予備軍であり、農家や各企業の労働者で構成されている。その数は、全人口の5分の1に近い約500万人と推定されている。部隊の一部には、一つの企業に勤務する労働者のみで構成されたものも存在すると言われている。労働新聞が公表した写真では、徒歩部隊の中に防護服と防毒マスクを装着した一群や、警備犬を引き連れた一群、更にはトラクターや救急車も確認できる。

軍事パレードに先立つ9月3日に朝鮮中央通信が伝えるところによれば、9月2日に行われた朝鮮労働党中央委員会第8期第3回政治局拡大会議において、金正恩が重要事業として強調したのは、「国土環境保護事業」、「国家防疫事業」、「軽工業」及び「農業目標の達成」であった。今回パレードに参加したのは、これら事業に関連した人間が主となっている。これらを総合すると、各種報道が指摘しているように、今回の軍事パレードが、国内の引き締めを意図するという見方は正しいだろう。今年実施したのも、経済制裁、自然災害及び新型コロナの感染拡大により経済的に厳しい状況を背景として、国民の結束を固めるため、最も組織の大きい労農赤衛隊を登場させたと考えられる。

次に、昨年10月、今年1月に引き続き、なぜ深夜の時間帯が選ばれたのかという点である。金正恩は花火が大好きであり、花火が映える夜にしたという指摘もある。更には、色々な粗(あら)が見えないためという説もある。しかしながら、これらの説に従えば、日没後であれば良く、深夜でなければならない説明とはならない。北朝鮮は、この種の軍事パレードに西側諸国が関心を持ち、偵察衛星等で情報収集を行うことを十分に承知している。偵察衛星の上空通過時間を外した可能性や深夜に、一般市民を含め、これだけの人間を動員できるという国家統治の堅実性を、西側諸国に示そうとしたのではないだろうか。しかしながら、最も大きな理由は、深夜に集合させるという無理を強いることにより、指示に従わない国内不満分子のあぶり出しという目的があったと考えられる。

今回の深夜の軍事パレードは、最近西側で広がりつつあった北朝鮮の体制不安説を払しょくすることに加え、国内金正恩体制の引き締めを狙ったものであろう。また、子供達に手を引かれてひな壇に上がる金正恩は減量の成果か、若々しい表情をしており、肥満や暴飲暴食による健康不安説をも否定する狙いがあったものと考えられる。

一方で、米朝対話に関しては、いかなるシグナルも見いだせない。前述した38Northは、8月30日付の記事で、8月25日に撮影された商業衛星の分析結果から、寧辺の5メガワット軽水炉に再稼働の兆候が確認されたことを伝えている。国際原子力機関も年次報告書の中で、2021年7月頃から原子炉が再稼働している可能性があることを発表、安保理決議違反と指摘している。寧辺核施設は、2019年2月に物別れとなった米朝首脳会談で、北朝鮮が廃棄するとした施設である。北朝鮮の核開発における寧辺の地位は、あまり高くないと推定される。今回の再稼働の兆候は、プルトニウムの生産再開というよりも、少しでも米朝交渉カードとしての価値を高めようとするものであろう。

中国の習近平主席は北朝鮮建国73周年の祝辞を送付し、北朝鮮との強いきずなを強調している。中国が朝鮮半島非核化の進展という「北朝鮮カード」を使い、米国に対し優位に立とうとする可能性は否定できない。経済的苦境にあると見られる北朝鮮に、中国が更に影響力を強めてくる可能性がある。その場合、北朝鮮は今まで以上に中国に配慮する必要があり、中国の意思に反する挑発行為はできなくなってくると考えられる。

北朝鮮は、9月28日に憲法上最高の国家意思決定機関である最高人民会議を開催することを公表している。カブール陥落に伴う米国の威信の低下、米国が韓国という同盟国を見捨てる可能性や米中対立という国際情勢を受け、北朝鮮がどのような意思決定を行うのか注目される。

サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄

防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。

写真:KCNA/UPI/アフロ


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