危うい状況にある日本の海運-中東におけるタンカー襲撃事件が示すもの(1)

危うい状況にある日本の海運-中東におけるタンカー襲撃事件が示すもの(1)

2021年7月31日付米海軍協会(USNI)紙は、7月29日から30日にかけて、オマーン沖を航行中であったリベリア船籍、イスラエルの会社が運航するタンカー「マーサー・ストリート」が3回にわたるUAV(無人航空機)攻撃を受けたことを、米海軍第5艦隊司令部が明らかにしたと報じた。当該タンカーはタンザニアのダルエスサラームからUAEに向け、オマーン沿岸から21海里の海域を航行中であった。この攻撃で、ルーマニア人船長と英国籍の保安関係者1名が死亡している。

中東に展開中であった米海軍空母「ロナルド・レーガン」から、支援及び調査チームが派遣され、乗組員への支援及び被害調査等を実施している。当該海域を担当する米中央軍(Central Command:CENTCOM)は8月6日に、その調査結果をホームページ上に公開した。報告書は、攻撃者をイランと決めつけてはいない。しかしながら、イランが保有するUAVとタンカーに残されているUAVの破片を比較したうえで、当該UAVをイラン製と断定、イランがこの攻撃に関与した可能性が高いと専門家はみていると報じている。そして、今後中東地域において、サウジアランビアやイラクを含む多国籍軍にこのようなUAVによる攻撃が増えてくる可能性を指摘している。

本事件の影響について、国際政治、日本経済、そして軍事技術の三つの面から考えてみたい。

国際政治上の影響は、イランの核問題をどう扱うかに帰着する。2019年6月13日にホルムズ海峡付近で、日本とノルウェーの海運会社が運航するタンカー2隻がリムペットマイン(吸着型爆弾)または飛来物による攻撃を受け、火災を起こすという事件が発生した。当時アメリカは、イランが核合意に違反しているとして、イランへの経済制裁を復活、両国間の緊張が高まっていた状況であった。アメリカは攻撃の責任はイランにあると批判、これに対しイランは、アメリカは虚偽情報を広め、戦争を誘発していると反論した。

事件当日、安倍首相(当時)がイランを訪問中であり、トランプ大統領からの親書をイランの最高指導者ハメネイ氏に手渡そうとしたが、同氏は受け取りを拒否した。イランが安倍首相の訪問を受け入れた当日に、日本関連船舶に攻撃を加えることをイラン政府が許容したとは考えにくい。アメリカ政府は、イラン革命防衛隊の警備艇に似た船舶が、不発であったリムペットマインをタンカーから取り除く赤外線映像を公開している。イラン革命防衛隊が同攻撃に関与した可能性は極めて高いが、イラン政府の統制が不十分であり、同部隊が単独の決断で攻撃を行ったとも考えられる。

この事件を受けて、2019年12月以降、わが国は同海域において、海上自衛隊の艦艇及び航空機による情報収集活動を実施している。本事件は、イランの関与を曖昧にしたまま、同海域の危険性のみがクローズアップされ、原油価格の上昇や、船舶の保険料等の増加という経済的損失を関係国に与えることとなった。

バイデン政権は今年2月、トランプ政権が離脱したイラン核合意への復帰について、イラン側と対話を行う姿勢を示している。8月6日に行われた記者会見において、今回のUAV攻撃に関する米国の見解を問われたサキ報道官は、G7外相会談で示された見解、「攻撃は国際法違反であり、イランに一連の国連決議を遵守するように求める」を繰り返したのみであった。現時点でアメリカは、イランとの核合意に関する交渉を優先し、本攻撃に関連して、イランに新たな措置を取ってくる可能性は低いものと考える。

これらの事件が日本経済に与えるインパクトを考えた場合、原油価格や保険料という点に加えて、我が国の海運を巡る環境からいって、さらに大きな問題を指摘しなければならない。日本船主協会が公表した「日本の海運2020-2021」によれば、我が国輸出入の99.6%が海上運送である。そのうち63%を、日本の会社が運航する日本商船隊が占めている。しかしながら、その日本商船隊2,411隻中、日本籍はわずか11.3%の273隻であり、その他は外国籍船舶をチャーターしたものである。さらには、日本商船隊の船員約6万人中、日本人は約2,200人(2019年度)に過ぎない。これらのデータが意味するところは、日本の生存に係る重要資源の海上輸送を外国及び外国人に大きく依存しているという事実である。中東海域が危険であるとの認識が広がれば、外国人船員の運航拒否、乗船拒否が相次ぎ日本経済が麻痺する可能性も否定できない。

海上運送法第26条には、「航海命令」の規定があり、「災害救助その他の公共の安全の維持のため必要であり、かつ自発的に当該航海を行う者がいない場合に限り」国土交通大臣は船舶運航従事者に「航海を命令することができる」とされている。しかしながら、当該規定には命令に従わなかった場合の罰則はなく、航海命令を受けて運航した船舶への補償のみが規定されている。

中東情勢がさらに危険度を増せば、船籍が日本ではない、乗組員が日本人ではないという理由で航海命令を拒否することがあり得る。米国や韓国には、有事に生存と繁栄が確保できるだけの船腹量を確保する枠組みがあるが、日本の海運業界には、第2次世界大戦において、軍に徴用された商船等に大きな被害が及んだことから、国家による有事の徴用に否定的である。

しかしながら、有事において国家の生存と繁栄に必要な海上輸送を確保することは国家の責務であろう。退職自衛官や海上保安官の活用も含め、平時から所要の船腹量を確保する枠組みを作る必要がある。

サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。

写真:ロイター/アフロ


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