七つの大罪-中国による世論戦-(2)

七つの大罪-中国による世論戦-(2)

本稿は、「七つの大罪-中国による世論戦-(1)」の続編となる。

7月27日付解放軍報は、7月26日に中国を訪問した米シャーマン国務副長官と謝鋒外務次官の懇談内容を伝えている。謝外務次官は、米中関係の行き詰りは米国の「中国敵視」にあるとし、内政への干渉、中国共産党とその指導者及び中国の特色ある社会主義システムへの攻撃を停止し、中国の発展を抑制するのをやめることを要請したと伝えている。さらに、中国は米国に敵対する気はなく、なり替わろうとする気持ちも無いと語ったとされている。さらに王毅外相も「アメリカは中国の特色ある社会主義の道と制度に挑戦し、その転覆を試みてはならない」と要求したことが伝えられている。この発言に見えるのは、バイデン政権の「価値観外交」が中国の特色ある社会主義とは相いれない、さらに言えば脅威と中国が認識している可能性があることである。

解放軍報が掲載した「米国同盟七つの大罪」は、今までの米国の政策が、いかに世界に殺戮と破壊をもたらしたのかということを主張することで、いわゆる米国を中心とする「like-minded countries」の枠組みに楔を打ち込もうとする中国の世論戦と考えられる。指摘されているものの中には、荒唐無稽なものもあるが、一部には、イラク攻撃の理由とされたイラクの核保有が誤情報であったこと等、米国として指摘されても仕方が無い点も散見される。さらに、豪州の対中貿易の減少を「like-minded countries」の他の国が補っているという点は、今後国家間の摩擦となる可能性が高い。国家によって経済関係に濃淡がある中国との距離感の違いを中国はうまく利用してくるであろう。米国が「like-minded countries」として協調を進める国に、中国が関税の強化というような「鞭」、あるいは経済支援といった「飴」を使い分けてくる可能性が高い。今回の解放軍報の記事は、中国国内のみならず国際社会において、米国の価値観というものがいかに独善的で危ういものかということについて共通認識を深めることを意図した記事とみられる。それぞれの国が持つ価値観は、歴史や文化に根ざすものであり、完全に一致することはあり得ない。「like-minded countries」は、あくまでも、民主主義や法の支配を重視するという最大公約数的な価値観を共有する集まりである。 国によっては、解放軍報の記事に賛同する国が出てくる可能性は否定できない。

解放軍報によると、8月4日にテレビ会議形式で行われた第11回東アジア首脳会議(EAS: East Asia Summit)外相会合で、新疆・ウィグル及び香港における人権問題を批判した日米に対し、王毅中国外相は、香港独立派による騒乱を望んでいるのか、年々発展する新疆ウィグル地区にジェノサイドなどあるわけがないと反論した。さらには、米国がアメリカインディアンに行ったことこそが大量虐殺であり、米国が世界各地で繰り広げた戦争の結果として多くの民間人に与えた被害は人道に対する罪であるとの主張を行ったとしている。

今後中国が、それぞれの国の「負の歴史」をあげつらい、自らへの批判をかわすケースが増大してくるであろう。価値観の違いや歴史というものを前面に出した世論戦に対し、きちんと反論できるだけの準備と心構え、さらには、日本の主張を積極的に国際社会に訴えていく体制を整えていかなければ、中国の一方的な主張が国際常識になりかねないという危機感を持つ必要がある。

サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。


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