七つの大罪-中国による世論戦-(1)

七つの大罪-中国による世論戦-(1)

2021年8月4日付中国人民解放軍報は、2ページを使って「米国同盟の七つの大罪」という記事を掲載している。「七つの大罪」には、諸説がある。カトリック教会が定める「七つの罪源」には、「傲慢」、「強欲」、「嫉妬」、「憤怒」、「色欲」、「暴食」及び「怠惰」があげられている。バイデン政権は「アメリカ、ファースト」を掲げたトランプ政権と異なり、価値観を共有する国々との協力、いわゆる「価値観外交」を進めている。解放軍報の記事は、米国を中心とする同盟国の歴史を、「七つの大罪」になぞらえて批判するものであり、西側諸国共通の価値観に対する中国の世論戦という観点から興味深いものとなっている。訳文中、興味のある点は次のとおりである。

第一に挙げられているのは「暴力」である。米国建国から240年以上の歴史の内、戦争を行っていなかったのは20年に満たず、米国は1945年から2001年にかけて、153の地域で発生した248件の武力紛争の201件(約81%)に関係している。これにより多くの人々が命を落とし、経済と社会の発展が阻害されたとしている。

第二が「略奪」である。米国のイラク戦争による石油利権、ドルによる世界金融覇権、アフリカの資源覇権、英仏による海外領土の維持等を一方的な「略奪」であると位置づけている。

第三は「不法行為」。国連海洋法条約を始めとする各種条約や協定のいくつかへの署名を拒否し、国際システムを弱体化させたことや、シリアやイランに対する一方的制裁やスノーデンにより明らかにされた、米、英、加、及びニュージーランドによる全世界の監視網、いわゆる5Eyesによる情報収集活動を「不法行為」と批判するものである。

第四が「破壊」であり、世界各地で軍事力を使用し、政権の転覆を行ったと批判している。

第五が「嘘」である。イラク攻撃に際しての核兵器保有疑惑、コソボにおけるジェノサイド疑惑、シリアにおける化学兵器使用疑惑に加え、中国に対する新型コロナウィルス感染源、南シナ海の軍事化、一帯一路を新植民地主義と批判する等、嘘で塗り固められた一方的主張をしているというものである。

第六は、若干色彩を変えて「保護」である。同盟国を保護し、その弱点を悪用しているというものである。米国が支持する、日本の原発処理水の海洋放出を核汚染水海洋放出と批判、加えて日本の集団的自衛権を容認する法律改正を後押し、戦時中の日本細菌部隊「731部隊」の活動を闇に葬り、その資料を独り占めしたと日本に関する記述が目立つ。米国は日本を手先として使用するために、色々な手管を講じているという主張であろう。国連決議に違反して一方的にイスラエルを支持しているとの批判もこの項目に含められている。

最後の罪は「内なる罪」である。米国は国際協調を強調しながらも、その内実は貿易協定等の各種協定をつうじて同盟国を支配しているというものであり、各種の対日経済規制、各国国内市場の米国への開放及び米国装備の購入圧力をその例としてあげている。更に同盟国の協力は口先だけであると述べ、その証拠に、豪州の中国に対する強硬姿勢を支持しているが、そのことにより豪州が中国で失った石炭や食料品のシェアを、他の同盟国が奪っているとしている。

トランプ政権の外交は、米国の国益を最優先する「国益外交」であった。NATO、韓国といった同盟国との協調よりも、米国の利益を優先する姿勢であり、中国に対する強い姿勢も、その延長線上にあった。「国益外交」は、利があると判断すれば、それまでの枠組みを無視する危険性を内包している。事実トランプ政権の予測不能性は同盟国をしばしば不安に陥らせた。端的な例が、北朝鮮の核問題を巡る金正恩総書記との関係である。互いにののしりあっていた両者の関係が、急に「相思相愛」と呼ぶまでに変化した。三回にわたる米朝首脳会談では、トランプ大統領が一方的に妥協するのではないかとの危惧が国際社会に広がった。世界的な影響力を持つ米国の政策豹変は周囲に大きな影響を及ぼす。

バイデン政権は、2021年2月に公表した外交政策において、「米国の最も大切にする民主的な価値に根差した外交を始める」とし、価値の例として、自由や機会の擁護、法の支配及び人権をあげている。「国益外交」に比較すると「価値観外交」に基づく外交政策はあまり変化することなく、普遍的性格を持つ。特に、米国民主党が重視する「人権」は、国境を超える広がりを持つ。中国やロシアでは、米国によるそれぞれの国に対する人権侵害という批判を、内政干渉としている。しかしながら、バイデン政権が香港や新疆ウィグルの人権に関し妥協する可能性は低く、ミャンマー軍のクーデターに対しても、民主化を求めて強硬な措置をとってくる可能性も否定できない。

サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。


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