各国は、なぜ火星を目指すのか

2021.05.31

各国は、なぜ火星を目指すのか

火星は、太陽系の第4惑星で、地球の外側の軌道を回る天体である。太陽から約2億2,800万キロメートル(地球は約1億5,000万キロメートル)の距離にあり、687日かけて公転している。直径は地球の約半分で、二酸化炭素を主成分とする大気に覆われている。火星全体は赤っぽく見えるが、これは表面の岩石や砂が二酸化鉄を多く含んでいるためであると見積もられている。火星の北極と南極には、水の氷や二酸化炭素の氷(ドライアイス)などでできた「極冠(きょくかん)」と呼ばれる白い部分があり、火星の表面や地下に水の存在が期待されている(自然科学研究機構「国立天文台」)。

2021年2月10日、AFPは、「アラブ首長国連邦(UAE)」の火星探査機『HOPE』(ドバイにあるMBRSC=Mohammed Bin Rashid Space Centerが主導して製作)が2月9日、火星の周回軌道に無事到達した」と報じた。JAXAによると、『HOPE』は昨年7月、鹿児島県の種子島宇宙センターから日本のH2Aロケット42号で打ち上げられた。高解像度の観測カメラを搭載し画像情報を収集するとともに、約2年にわたり火星全体の大気や温度などを測定するという。UAEの最高権力者ムハンマド皇太子はツイッターで「我が国の歴史で重要な業績であり、先駆者たちの努力は将来の科学者を勇気づけるだろう」とアラブ諸国初の快挙を称賛している。

米国航空宇宙局(NASA)は、「2021年2月18日、火星探査車『パーシビアランス』を搭載したカプセルが、火星への着陸に成功した」と発表した。『パーシビアランス』は、23台のカメラを装備し、重さは約1トン、6つの車輪で移動しながら、3年がかりで岩石サンプルの採取、気象等のデータ収集を行う。2020年代の後半には、このサンプルを回収する新たなロケットの打ち上げが計画されている。さらに、2021年5月27日、NASAは、「火星ヘリコプター『インジェニュイティ』が6回目の飛行を実施した。地球以外の天体での動力を使った初めての飛行となった」と発表した。『インジェニュイティ』は高さ約50センチメートル、重さ約1.8キログラムであり、性能は、最高高度5メートル、飛行距離最大300メートルとされている。現状では、十分な性能を備えていないが、地上走行の探査機では、将来的に限界がくることを予見した試みであったのだろう。

2021年5月19日、CNNは、「中国国家航天局(CNSA)は、火星探査機『天問1号』が5月15日に火星に着陸し、5月19日、火星探査車『祝融』が最初に撮影した火星の画像を公開した」と報じた。また、中国国営中央テレビは「『祝融』は、6輪で、太陽光発電ができ、重量は約240キロ、約3か月にわたり火星の地表で岩石などのサンプルを採取・分析し、数年後に回収のためのロケットが打ち上げられる計画」だとし、その構造や運用構想などを説明している。

NASAなど宇宙開発機関等によると、火星周回探査機、地表探査機は、2021年当初、米国が「マーズオデッセイ」など3機、欧州宇宙機関(ESA)、インドがそれぞれ1機であったものが、今回の3機を加え、現在8機が活動中である。AFPによると「2021年3月、ロシア国営宇宙企業ロスコスモスは、ESAと共同で進めている火星探査計画『エクソマーズ』を2022年に打ち上げる」と報道しており、日本のJAXAも「『火星探査機MMX:Martian Moons eXploration』を2024年に打上げ、火星の衛星「フォボス」と火星本体の観測やサンプルリターンを計画している」と発表している。米国の実業家スペースXのイーロン・マスクCEOは、2021年3月23日のツイートで「スペースXは、宇宙開発分野で欧州企業を凌駕しており、2030年頃には火星の基地に自立したエコシステムを築くだろう」と豪語している。

各国や各企業は、なぜ火星を目指すのだろうか。その理由は、いくつか考えられる。(1)火星探査などの宇宙開発は国民の支持を得やすい分野であるとともに、最先端技術の粋を集めて行われ、それらの技術の多くは軍事を含むあらゆる分野で活用できる。(2)宇宙開発で成果を上げ、国民に自信を与え、国威を発揚ことができる(バイデン大統領や、習近平総書記など各国指導者は、宇宙開発での偉業や快挙の際には公に祝意を述べ、業績を称えている)。 (3)人類や生物にとって、地球での生存が困難となったときに、太陽系という比較的近い惑星で地球に似ている天体で生命や種を存続させることができる。

「宇宙」は「サイバー」と並んで新たな戦闘領域となっており、それらの領域の安全な使用を確保することは我が国の安全保障に直結する。5年に一度制定される我が国の宇宙基本計画においても「宇宙安全保障の確保」が宇宙政策の目標の一つとされている。昨年12月に日本の探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」からサンプルの収集に成功した。この成功は宇宙の成り立ちを知るという事だけではなく、日本の科学技術の優秀さと、他に転用した場合の効果を世界に知らしめたと言える。地球と火星の間を公転するわずか0.7kmの直径しかない小惑星に着陸し、更にサンプル収集を行う技術があれば、地球の周りを回っているいかなる人工衛星も破壊できることを意味する。我が国の安全保障を構築する上でも、前述の理由に加え、国家生存、国家安全保障の観点からも火星探査など宇宙開発の意義を考えなければならない時期にきていると認識すべきであろう。

サンタフェ総研上席研究員 將司 覚    防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。


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