中国海警法への対応について(2)

2021.03.02

中国海警法への対応について(2)

本稿は「中国海警法への対応について(1)」【フィスコ世界経済・金融シナリオ分析会議】」の続編となる。

日本における平時の領域警備は、一義的に法執行機関である海上保安庁の任務である。海上保安庁の2021年度の定員は約1万4,400名、今年度は385名の増員を予定している。海上保安庁の今年度の予算は約2,670億円に過ぎない。日本は447万平方キロメートル、世界第6位の広大な排他的経済水域を有しており、この僅かな要員と予算で領域警備、海上権益の確保、災害対処、海難救助、灯台の維持管理、海路地誌の編纂更新などを手掛けており、多くの制約があるなか広範多岐にわたる任務を遂行している。

ここ数年の海上保安庁の排水量1,000トン以上の巡視船数は、2012年が51隻、2014年が54隻、2019年が66隻と着実に増強されている。しかし、中国の排水量1,000トン以上の巡視船数は、2012年が40隻であったのに対し、2014年が82隻、2019年は1万2千トン級の大型巡視船を含む130隻である。巡視船保有数も保有数の増加率も日本を大きく上回り、巡視船保有数の日中の格差は拡大する一方である。

防衛省は、島嶼の防衛強化のため、航空自衛隊が2016年に第9航空団、2017年に南西航空方面隊を新編した。陸上自衛隊は2018年に本格的な水陸両用作戦機能を備えた水陸機動団および離島での警備部隊や地対艦、地対空誘導弾部隊などを配置した。また、島嶼防衛の万全を期すために、全国各地から各部隊や装備品を継続的に輸送する2,000トン級の中型船舶1隻、喫水が浅い島嶼部への輸送が可能な400トン程度の小型船舶3隻を現在の中期防衛力整備計画で整備する計画だ。陸上自衛隊水陸機動団は米海兵隊と「アイアンフィスト演習」など、定期的な共同訓練を実施しており、侵攻部隊の接近・上陸阻止または占拠された場合の奪回作戦の共同対処能力の向上に努めている。

2020年9月、自民党国防議員連盟(会長:衛藤征士郎元防衛庁長官)は、尖閣諸島の実効支配を強化する対策を政府に提言している。具体的内容としては、(1)尖閣諸島周辺での日米共同訓練の実施、(2)海上保安庁と米国沿岸警備隊の共同訓練の実施、(3)下地島空港の自衛隊使用、(4)防衛装備の近代化、など10項目を要望している。また、2021年2月2日に、自民党保守系グループ「日本の尊厳と国益を護る会」(会長:青山繁晴参議院議員)も、実行可能な提言として、(1)尖閣諸島周辺での日米共同訓練、(2)日米統合連絡所の設置、(3)海上保安庁の大型巡視船の配備、など6項目の提言を菅総理、岸防衛大臣に提出している。

中国の海警法制定の真意は、計り知れないところであるが、中国の3戦(世論戦・心理戦・法律戦)を駆使して、中国領土としての尖閣諸島の実効支配を強化してくるのだろう。一方、中国の実効支配の障害となる最大の要因は日米安保条約である。バイデン政権はすでに尖閣諸島が日米安保条約第5条の適用範囲であることを明言している。しかし、この適用はあくまでも「日本の施政下にある領域である」ことが条件である。中国は、尖閣諸島周辺でのプレゼンスを増加し、日本漁船に対する法執行により実効支配を強化し、ゆくゆくは尖閣諸島の施政権を主張するようになる可能性がある。

南シナ海や香港のように中国は「力による現状変更」を狙っている可能性が高く、尖閣および台湾は、戦後最大の危機に直面しているといえよう。政府は、従来の「遺憾表明」だけでなく、中国の非合法な振る舞いを世界に発信し、自民党各グループの提言など実効性ある対策を行うべきだろう。また、海上保安庁、防衛省と警察機関が緊密に連携し、円滑に協同対処できる態勢の整備が急務であろう。「寸土を失うものは全土を失う」という格言がある。国家の総力を結集して対処しなければならない時期が差し迫っているのかもしれない。

サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。

提供:第11管区海上保安本部/AP/アフロ


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