変容する同盟―日米同盟(2)

変容する同盟―日米同盟(2)

本稿は「変容する同盟―日米同盟(1)」の続編となる。

日米同盟の限界として第一に指摘できるのは、日米安保条約の地理的限界である。1960年に締結された現行日米安全保障条約は、その前文において、「両国が極東における国際の平和及び安全の維持に共通の関心を有することを考慮し」とあり、第6条に「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため」米国軍隊が日本の施設及び区域を使用することが許されると規定されている。このことから、日米安保の地理的適用範囲は「極東」に限定される。1960年の政府統一見解では、「極東」を地理学上正確に確定したものは無いとしつつも、条約の適用範囲を「大体において、フィリピン以北並びに日本及びその周辺の地域であって、韓国及び中華民国(台湾)の支配下にある地域も含まれている」としている。

かかる解釈に基づけば、日米安保の地理的適用範囲に南シナ海やインド洋は含まれないと解釈するのが妥当である。従って、日米安保条約は、南シナ海やインド洋において日米の艦艇が共同した作戦をとる法的担保とはなりえない。インド洋における補給支援活動やソマリア沖海賊対処活動は、それぞれ特別措置法を制定、日本独自の事業として行われている。現地において米軍と情報交換を実施しているが、これは共同作戦の範疇ではない。

第二に指摘できるのは、日米安保の適用海域であったとしても、武器使用に関する大きな差があることである。武器は、日米双方がそれぞれの国内法に基づき行使規定を定める。台湾有事を考えてみよう。平和安全法制に基づけば、まず事態をどのように位置づけるかが課題である。我が国と密接な関係がある他国に武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされると判断すれば、これは「存立危機事態」とされ、必要最小限度の実力行使が認められる。一方、これを重要な影響を与える事態と判断すれば、「重要影響事態における後方活動」となり、米軍等への後方支援のみを実施することとなる。台湾有事に米軍が介入し、これを我が国が重要影響事態としたならば、その時点で日米安保は終わる。

「存立危機事態」に認定したとしても、自衛隊の武力行使は、あくまでも「必要最小限度」に制限される。例えば、日米共同部隊で米空母の護衛を実施していた時、日本艦艇が公海上で国籍不明潜水艦を探知しても、相手が何もしなければ、これを攻撃することは「必要最小限度」を超える。このような部隊に米軍は虎の子ともいえる米原子力空母の護衛を任せるであろうか。共同部隊を編成するとすれば、共通の武器使用基準を定める必要があるが、それぞれの国内法の違いから、完全に一致させることは容易ではないと考えられる。

アーミテージ・ナイ報告書にあるように、日本がインド太平洋において対等の同盟国となるためには、以上の問題をクリアーする必要がある。憲法を改正し、集団的自衛権を保持していることを明確化、それに基づきインド太平洋における共同対処の枠組を作ることが最も好ましい。しかしながら、現在の国内事情を考慮すると、これは「百年河清を待つ」に等しい。

そこで提言したいのは、責任範囲の分担である。インド太平洋といっても広大な海域である。現行の日米安保の対象海域である「極東」における海洋部分の安全保障を日本と米国が実施する。南シナ海にける安全保障を米国とASEANで、インド洋における安全保障を米国とインドそして豪州で担保するという考え方であり、米国を中心とするQUADによる海洋安全保障の考え方である。それぞれ思惑が異なるQUADではあるが、海洋安全保障の利害は一致する。現在常設の事務局もなく、制度化されているとは言いがたいQUADであるが、海洋安全保障を主たる目的として日本が制度化を推進すべきであろう。

現在防衛省が積極的に行っている艦艇のインド太平洋活動や遠洋航海部隊又はソマリア派遣部隊の戦略的寄港、さらには米、インド、豪州との共同訓練の役割は別にある。一つには、日本の顔を多くの場所で示し、従来経済一辺倒で、最近低下してきた日本の存在をアピールすることである。海外に派遣された自衛官の規律の正しさや装備の故障の少なさは各国を驚かせている。加えて、艦艇等が寄港することにより、当該国の日本大使館の存在感が高まる。海上自衛隊艦艇が寄港地において高官を招き、装備を展示、実際働いている自衛官の姿を見せることは、地盤沈下しつつある日本のプレゼンスを再度示す良い機会となるであろう。

日米安全保障態勢は情勢の変化に伴い不断の見直しを行い、日本の防衛から地域安定の役割、そして現在では国際情勢安定化の役割まで担うまでになってきた。1月27日付中国解放軍報電子版は「日本は米国の対等な同盟国となれるか」との記事を掲載させている。その論旨は、アーミテージ・ナイ報告書は中国の発展を阻害するため、日中の離反を図ろうとする冷戦思考に基づくものである、対等な同盟とは独立した考えを持つことであり、日本は米国の影響下から脱し、インド太平洋においてウィンーウインの協力関係を構築すべきである、というものである。文中、「日本の元首相が、私は日本が独立した国と考えていたが、首相になってみると日本は完全に独立した国ではなかったことに気付いた」との言葉を引用している。在日米軍が存在する限り日本は完全な独立国ではないということを暗に述べたものである。ナポレオンは「本当に恐れるべきは無能な味方である」と述べたといわれる。日本には無能な味方以上の敵がいる。

サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。


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