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2021.02.05 安全保障

適切なコロナ対策とは何か?

中村 孝也

1月8日に開催された「新型コロナウイルス感染症対策分科会(第21回)」では「最近のクラスターの解析」が紹介されている。それによると、5人以上の感染者が発生したクラスターは807件、感染者数は13,252人であった。これは報道情報に基づくクラスターの情報をデータベース化したものを対象に、2020年12月以降に報告があったクラスター人数が5人以上のケースを抽出したものである。

クラスターの種類のうち最多のものは「医療・福祉施設」であり、件数は361件(45%)、感染者数は8,191人(62%)であった(カッコ内は構成比)。一方、何かと注目されやすい「飲食関連」は156件(19%)、1,664人(13%)にとどまる。「接待を伴う飲食店」クラスターの件数は77件、感染者数は907人であり、資料でも「約半分が「接待を伴う飲食店」」と紹介されている。ただ、全体に占める割合は、件数ベースでは9.5%、感染者数ベースでは6.8%にとどまる。問題視されやすい「接待を伴う飲食店」クラスターの件数が77件、感染者数が907人であるのに対して、教育施設のうち最多の「高校」クラスターは41件、771人、職場関連のうち最多の「企業」クラスターは66件、635人である。弁護するわけではないが「接待を伴う飲食店」とさほど大きく変わらないように見える。

既存店外食売上高は2020年10月の前年比4.0%減をピークに悪化が続いており、1月は同21.2%減に落ち込んだ(対象:10社)。コロナショック直後の2020年3月(同21.6%減)にほぼ匹敵する悪化である。日本経済研究センターの「感染対策の経済影響」は、緊急事態宣言を4週間延期するケースでは、2021年1~3月期の民間消費は前期比5.3%減と推計している(「緊急事態宣言、2週間の“我慢”でえられる効果とは?」)。年率換算で15兆円ほどの民間消費の減少は決して軽微なものではない。これらの苦境がコロナ対策によるところが大きいことは言うまでもない。飲食関連の営業時間短縮の緩和を主張する意図はないが、採られているコロナ対策が果たして適切かどうかを問い続ける姿勢は重要であろう。仮に適切な環境認識に基づかない施策によって、このような苦境がもたらされているのであれば、なんともやるせなさが拭いきれまい。

介護施設における積極的な検査体制の構築」では、地域によっては、濃厚接触者の判定が難しくなり、介護施設等でクラスターが発生している状況を紹介しつつ、積極的なPCR検査等の必要性を強調している。最大のクラスターが医療・福祉施設にあるのであれば、そこへの政策対応は不可欠であろう。この点について、分科会で実際にどのような議論が展開されたかは議事要旨を見る限りでは不明だが、資料では「クラスターの内訳→医療・福祉施設を除いたクラスターの内訳→飲食関連、教育施設、職場関連の内訳」という順にデータが紹介されており、その議論が端折られているような印象も否めない。

もちろん、クラスターの発生源は固定的なものではない。随時アップデートされた状況を認識しつつ、適切なタイミングで必要な対策を打ち出すことが不可欠であろう。その観点からは、第21回以降の分科会で「最近のクラスターの解析」が更新されていない点も気にかかる。第1波、第2波、あるいはそれ以降の事象を検証した上での政策が展開されることを祈るのみである。

(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。