軍事的視点から見た北朝鮮第8回党大会(2)

軍事的視点から見た北朝鮮第8回党大会(2)

本稿は「軍事的視点から見た北朝鮮第8回党大会(1)」の続編となる。

北朝鮮は昨年大規模な自然災害に見舞われ、多くの住宅や農地が洪水の犠牲となった。これらの復興には軍の大規模動員が実施されている。昨年12月10日の朝鮮中央通信の記事によれば、216師団と社会安全省旅団の軍人建設者により、北朝鮮北部会寧市周辺に千数百世帯の住宅を建設したと伝えている。このような軍による住宅建設は各被災地で行われている。軍を被災地復興に大規模動員すれば、必然的に軍事訓練に大きな制約を受ける。北朝鮮人民軍、特に地上軍約110万人の即応能力は相当程度低下しているであろう。短距離弾道ミサイルや多連装ロケット砲の開発を積極的に行っている背景には、この様な地上軍の能力低下が影響している可能性がある。

多弾頭個別誘導技術、極超音速滑降飛行及び原子力潜水艦については、自らも述べているように、研究開発の段階で在り、現時点で具体的な脅威とはならない。原子力潜水艦は、現在米英仏中ロ及びインドが保有し運用している。原子力潜水艦の原子炉は「加圧水型軽水炉」が主用されている。北朝鮮が寧辺で稼働させていた原子炉は黒鉛減速炉である。2018年に国際原子力機関は寧辺において軽水炉建設に関連する動きが続いているとしており、一定程度の軽水炉の技術は保有していると推定できる。

しかしながら、艦載原子炉を製造するにはまだまだ長い道のりがある。1960年代から計画を開始したインドにおいて、最初の潜水艦アリハントが浸水したのは2009年のことであった。しかも北朝鮮は、小型潜水艦の建造実績しかなく、中型以上、ましてや原子力潜水艦の建造となると大きな技術上のハードルがある。中国やロシアからの技術協力が無ければ困難であろう。両国ともこれらの技術提供を行う可能性は低く、北朝鮮が原子力潜水艦を建造するとしても、相当程度将来のことと考えられる。懸念されるのは、建造や試験の最中に原子力事故を起こすことである。事故の種類によっては広範な影響が考えられる。

金正恩は経済と軍事の「両輪戦略」をとっている。今回の過去5年間の総括では、経済部門についてわずかしか言及していない。軍事部門における成果として核や弾道ミサイルを強調し、米朝交渉等をつうじ国際的地位を向上させたことを最も大きな成果とした。「両輪」と言いながら、国民に窮乏生活を強いていることから、軍事分野と米朝交渉しか誇れるものがなかったというのが現状であろう。従って、今回金正恩が核能力や軍事分野に細かく言及した背景には、経済的には苦しいが核及び軍事力に裏打ちされ、国際的影響力は大きいことを主張し、国内の不満を解消しようとしたものと見られる。現時点で、北朝鮮が強硬路線に回帰したと見ることは時期尚早であろう。

サンタフェ総研上席研究員 末次 富美雄
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。護衛艦乗り組み、護衛艦艦長、シンガポール防衛駐在官、護衛隊司令を歴任、海上自衛隊主要情報部隊勤務を経て、2011年、海上自衛隊情報業務群(現艦隊情報群)司令で退官。退官後情報システムのソフトウェア開発を業務とする会社において技術アドバイザーとして勤務。2021年から現職。


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