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2021.01.07 安全保障

南シナ海・東シナ海における米中戦略的競争(その2)

將司 覚

本原稿は、「南シナ海・東シナ海における米中戦略的競争(その1)」の続編となる。

「中国の南シナ海(SCS:South China Sea)・東シナ海(ECS:East China Sea)への取組み」:中国は、大規模な島嶼建設、基地建設や飛行場建設を行っており、SCSの実効支配権を急速に拡大していることに、米国はじめ周辺国が懸念を強めている。尖閣諸島での海警局の船舶による頻繁なパトロールの頻度が増し、中国が占領しているSCS内のいくつかの場所で中国の民間人の存在感が増している。中国は海軍だけでなく、海警局や海上民兵も活用している。そして、中国は米国をこの地域における部外者や干渉者とみなし、「航行の自由作戦」などは平穏な地域情勢をかく乱するものだと主張し、トラブルを煽る目的だと批判している。そして、領有権問題の解決は同盟国やパートナー国との間に楔を打ち込むために、多国間ではなく二国間での協議に持ち込む戦略を用いている。

「ポンペオ国務長官の声明」:2020年7月13日、ポンペオ国務長官は、「米国は自由で開かれたインド・太平洋構想を支持する。SCSの大部分での中国の海洋資源の主張は完全に違法である。米国は、SCSで平和と安定を維持し、国際法に基づき海洋の自由を守り、紛争を解決するために強制また力を使用するいかなる試みにも反対する。長い間ルールや国際秩序を支持してきた多くの同盟国やパートナー国と深くてゆるぎない利益を共有している。これらの共有された利益は、中国からの前例のない脅威にさらされている。中国の捕食的な世界観は21世紀には通用しない」と国際法を重視した国際秩序の維持を強調した。

「仲裁裁判」:国連海洋法条約(1996年、中国が条約締約)に基づいて構成された仲裁裁判所は、中国の海洋請求権を国際法上の根拠がないと却下した。ほとんどすべての請求権について、仲裁を提起したフィリピンが全面的に勝訴した。仲裁法廷の決定は最終的なものであり、両当事者を法的に拘束するものである。中国がSCSで合法的で首尾一貫した海洋請求権を提示できなかったため、米国は、SCSにおける領海12海里を超える水域に対する中国のいかなる請求も拒否する」と中国に対し強い態度表明を行った。

「自由航行」:海洋法条約の下では、軍艦を含むすべての船舶、航空機は領海を通過する無害な通行権を享受している。米国は、いかなる請求者にも事前通知せず、また許可を求めることなく無害通航に従事している。米国のすべての作戦は国際法に従って実施されるよう設計されており、米国は国際法が許す場所であればどこでも、過剰な海上請求権の場所や現在の出来事に関係なく、航行し、飛行し、活動することを実証している。米国は航行の自由を原則としている。

「国連への外交文書提出」:報道によると、2020年6月3日、米国は国連にSCSにおける中国の広範な海洋請求権主張を非難する外交文書を提出した。国連のケリー・クラフト米国代表は、国連のアントニオ・グテーレス事務局長に、中国の違法な海洋請求権主張の扱いを国連機関が責任を負うよう要請した。メモは国連海洋法条約とSCSにおける中国の主張が国際法の下で無効であるとした2016年の中国とフィリピンの法廷判決を引用したものだ。今回の米国の声明は、中国の攻撃的な行動を懸念する他の主張国との間で連帯感が高まっている表れでもある。

「議会の課題」:SCSとESCにおける中国との戦略的競争における議会の重要な課題は、米国の対中対立的アプローチ、FOIP(Free and Open Indo-Pacific)構想の戦略を支援する適切な財源の確保および議会の承認などである。紛争の平和的解決の原則を維持し、国際法に合致した方法で問題が解決されるべきである。そして、(1)中国がSCSで追加的な基地建設活動を行わないようにすること、(2)SCSで占有している場所の基地に追加的な軍人・装備・物資を移動させないこと、(3)SCSで主張する「九段線」に直線的な基線を宣言させないこと、(4)SCS上に防空識別圏(ADIZ:Air Defense Identification Zone)を宣言させないこと、であろう。

本報告では、SCSやECSにおける米国の戦略目標の達成、国際法に基づく海洋の自由の獲得、同盟国やパートナー国との条約履行の精神など、毅然たる態度で中国に対応していくという米国の国家意思が述べられている。

サンタフェ総研上席研究員 將司 覚
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年から現職。

提供:U.S. Navy/AP/アフロ

將司 覚

実業之日本フォーラム 編集委員
防衛大学校卒業後、海上自衛官として勤務。P-3C操縦士、飛行隊長、航空隊司令歴任、国連PKO訓練参加、カンボジアPKO参加、ソマリア沖・アデン湾における海賊対処行動教訓収集参加。米国海軍勲功章受賞。2011年退官後、大手自動車メーカー海外危機管理支援業務従事。2020年からサンタフェ総合研究所上席研究員。2021年から現職。

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