武器使用規定だけではない中国海警法草案の影響

2020.12.01

武器使用規定だけではない中国海警法草案の影響

中国の第13期全人代常務委員会が2020年11月4日に発表した「中華人民共和国海警法(草案)」には、武器使用に関する規定が盛り込まれている。中国海警局が海上における法執行権限に関する職責を統一して担うことを明記したこの草案は、全部で11の章、80か条で構成されており、中国海警局の組織や職責から職員の違法行為に関する規定まで幅広く網羅している。全文がインターネットで公表されており、12月3日を期限として市民の意見を聴取した後、法律としての制定手続きに移される予定になっている。

多くの関心が集まる武器使用に関する規定は、第6章「警察装備と武器の使用」に第42条から第47条までの6か条で記述されている。海警の職員が個人携行武器を使用できる状況は第43条に規定されており、(1)船舶が犯罪被疑者、違法に輸送されている武器、弾薬、国家秘密資料、毒物などを搭載しているという明確な証拠があり、海警の停船命令に従わずに逃亡した場合、(2)中国の管轄海域に進入した外国船舶が非合法な生産活動を行い、海警の停船命令に従わず、あるいは臨検を拒否し、その他の措置では違法行為を制止できない場合、の2つが挙げられている。

さらに第44条には、(1)海上における対テロ任務、(2)海上における重大な暴力事件への対処、(3)法執行中の海警の船舶、航空機が、武器その他の危険な手段による攻撃を受けた場合、の3つの状況では、個人携行武器のほかに船舶や航空機に搭載した武器を使用できることが規定されている。近年、海警の公船は大型化、重武装化が進んでおり、海上保安庁の「海上保安レポート2020」によれば、2019年の満載排水量1,000トン級以上の公船は130隻まで増加し、2012年の40隻の3.4倍に達する。その中には、世界最大級となる1万トン級の公船が2隻含まれるとみられ、海軍艦艇と同水準の能力となる76mm機関砲とみられる武器を搭載した公船も確認されている。状況に応じて使用できる武器を区分してはいるものの、軍に匹敵する武力の使用を認めていることは大きな脅威と言わざるを得ない。

しかし、草案にはこれ以外に2つ重要な記述がある。その1つは、第2章「機構と職責」の中にある職責に関する部分だ。第11条には職責として11項目が規定されているが、その第2項には保護対象として重要な島と排他的経済水域に並んで大陸棚に存在する人口島嶼が挙げられている。南シナ海で問題となっている人口島嶼は、2016年7月の常設仲裁裁判所の判断によって、領海や排他的経済水域が認められる島ではないことが明確に示された。それにも関わらず、海警の保護対象とすることは、実力で勢力範囲を維持する意図を明確に示していることに他ならない。

もう1つは、第3章「海上安全保衛」の第17条に規定されている。この条では、中国の管轄海域や島、岩礁などに設置された外国の建物、構築物、固定・浮遊設備等は、中国の関係機関の承認がない場合、海警に撤去を命じる権限が与えられている。さらに、命令に従わない場合には、強制撤去が可能だとされている。日本が尖閣諸島やその周辺海域に何らかの施設を構築した場合、領有を主張している中国は海警によってそれを妨害し、強制的に排除することができるということになる。日本に対する警告の意味が含まれていると考えて差支えないだろう。

草案における武器使用に関連する記述には、犯罪行為の性質、程度、緊迫性等に応じて使用する武器を必要最小限にとどめることや、人命や財産の喪失を努めて回避することも明記されており、一定の自制も含まれている。また、草案に規定されていないことは、人民警察の警察装備及び武器使用の規定を準用することとされている。海警が統合された人民武装警察も、武器使用に関しては同様に人民警察の規定が準用される。その観点からは、武器使用に関する規定はこれまでもあったということができる。武器使用権限の明確化は、我が国の防衛に明らかに大きな影響を与えるものではあるが、尖閣諸島や南シナ海に対して示した中国の強い意図は、それ以上に警戒を必要とするものかもしれない。

サンタフェ総研上席研究員 米内 修
防衛大学校卒業後、陸上自衛官として勤務。在職間、防衛大学校総合安全保障研究科後期課程を卒業し、独立行政法人大学評価・学位授与機構から博士号(安全保障学)を取得。2020年から現職。主な関心は、国際政治学、国際関係論、国際制度論。


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