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2020.11.17 安全保障

デジタルでの効率性を高める「消費者余剰型経済」へ

中村 孝也

内閣府が2020年11月6日に発表した経済財政白書では、近年利用が拡大しているシェアリングやサブスクリプションについて整理し、従来型のサービスがどのような影響を受けるか、また、どのような新たな付加サービスや商業展開が生じるのかについて、考察している。

シェアリングエコノミーとは、個人等が保有する活用可能な資産等を、インターネット上のマッチングプラットフォームを介して他の個人等も利用可能とする経済活動を指す。より具体的には、(1) 民泊や駐車場、会議室といった「空間のシェア」、(2)普段使わないものや不要となったものを貸借・販売する「モノのシェア」、(3)家事代行やベビーシッターなどの「スキルのシェア」、(4)カーシェアやシェアサイクルなどの「移動のシェア」、(5)クラウドファンディングなどの「お金のシェア」の5つのサービスに分類される。

内閣府経済社会総合研究所(2019)では、2017年のシェアリングエコノミーの市場規模は6,300億円~6,700億円程度であり、このうち、現行SNA(国民経済計算)の計上範囲内で捕捉できていないと考えられる額を1,300億円~1,600億円程度(付加価値額は800~1,000億円程度)と推計している。内閣府ではシェアリングエコノミーのうち民泊(住宅宿泊事業法・国家戦略特区に基づくもののみ)について、2020年末に予定している基準改定において、GDP統計に反映する予定である。

一方、サブスクリプションとは、一定の利用期間について定額料金が生じる取引・契約形態を指し、新聞の定期購読といった従来からあるサービスから、動画配信サービスなど、インターネットの発達によって始まった比較的新しいサービスまで様々ある。新聞の定期購読など従来からあるサブスクリプションは「定額で定量」である一方、インターネットの発達で近年増加している新しいサブスクリプションは「定額で使い放題」、「定額で選び放題」といった、ユーザーにとって定額以上のメリットがある点で異なる。

シェアリングエコノミーのうち、サブスクリプション型の取引・契約形態をとるサービスは、比較的新しいサービスと分類できよう。サブスクリプションの進展は、短時間・低価格で消費者の効用・満足度を高めるほか、様々な追加需要や地理的制約を超えたビジネスチャンスの創出につながっており、現行のGDP統計で捉えることの出来ない未計測の付加価値、消費者余剰を生み出している。

消費者余剰とは、ある財・サービスについて、消費者が支払っても良いと考える金額からその財の価格を差し引いた金額を指す。GDPなど従来の枠組みでは十分にとらえきれない豊かさを数値化する取り組みのひとつである。野村総合研究所の試算によれば、デジタルサービスによって生じた2016年の年間消費者余剰は、同年のGDPの約3割に相当する161兆円であるという。グローバル化で安い生産拠点と成長市場を求めた今までの「グローバリゼーション型経済」から、目下、デジタルでの効率性を高める「消費者余剰型経済」への転換の過程にあり、実体経済の中でもGDPでは捕捉しきれない部分がさらに拡大していくものと見られる。

(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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