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2020.11.04 安全保障

デカップリングによる長期的な経済影響

中村 孝也

久方ぶりに中期経済成長率に言及したIMF」ではIMFの中期経済見通しを紹介したが、日本経済研究センターの「2060デジタル資本主義」では、世界経済の長期見通しが議論されている。コロナショック前のものではあるが、ベースライン予測として、2030年代には中国のGDPがいったん米国を上回るものの、2050年代には米国のGDPが中国を再度上回ると予想されている。米国については、移民によって人口が増え続けるだけでなく、デジタル化に対応した投資の蓄積やイノベーションを促す社会制度が評価されている。

もっとも、このようなベースライン予測に対して、米中貿易摩擦に見られるような閉鎖的な政策が広がる保護主義シナリオでは、世界経済がマイナス成長に陥りかねず、経済規模では中国が米国を大きく引き離す見通しである。

デカップリングの具体例としては、日欧などの先進国が米国に同調し、中国からの電子機器輸入を制限し3割減らす場合が議論されている。中国では電子機器の売上が落ちるため10%超の生産が減少し、輸出の減少により中国GDPが0.5%ポイントほど下ぶれる。機器の需要自体は存在するため、中国から韓国・台湾、ASEANやメキシコに生産が移管され、中国では資本ストックが減少する一方、韓国・台湾、メキシコでは資本ストックが増加する。

日米およびその他先進国でも電子機器生産は増えるが、(1)輸入規制をした国は割高な機器を買うことになり、実質的な消費の総量は減少する、(2)中国が得意としていた生産を他地域が受け持つと効率が悪化して生産性が落ちる、ことから若干ではあるがGDPが減少すると見込まれる。先進国は割高な製品を買うことになり、輸入制限した地域では電子機器が3~4%ほど値上がりすることが見込まれる

(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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