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2020.09.14 安全保障

過熱するミサイル開発競争

実業之日本フォーラム編集部

2020年7月、米海軍空母打撃部隊は南シナ海において、2度にわたって大規模演習を強行した。これに対抗して中国軍は、8月24日から29日の日程で、南シナ海において海軍の軍事演習を行った。中国はこの演習の一環として8月26日、東部の浙江省から「空母キラー」の異名を持つDF-21D(射程約1,500km)と中央部の青海省から「グアムキラー」と呼ばれるDF-26(射程約4,000km)を、南シナ海の海南島と西沙諸島に挟まれた訓練海域に打ち込んだ。これは、明らかにアメリカをけん制し、威嚇する行動であった。これら各種のミサイル発射体制の構築により、中国が提唱している第2列島線という防衛線におけるA2/AD(Anti-Access/Area Denial)の態勢が整ったかのように見える。ここで、今回発射された中国の対艦弾道ミサイルDF-21D及びDF-26の性能や特徴などを見てみよう。

DF-21Dは、全長15m、直径1.4m、2段の固体燃料推進方式である。本体はキャニスターに格納され、TEL(Transporter Erector Launcher: 輸送起立発射機)にて移動し、MaRV(Maneuverable Reentry Vehicle:終末機動弾頭)を搭載し、ミサイル本体のセンサーに加え、ISR(Intelligence Surveillance Reconnaissance)センサーの情報も活用して命中精度を高めるという構造だ。ISRセンサーは、人工衛星情報としてエリント衛星(信号解析)情報、SAR衛星(合成開口レーダー)情報及び光学画像衛星情報を取り込み、さらに無人機WZ-9(2019年10月のパレードで初公開)が高高度、超音速で目標位置の捕捉情報を伝送し、弾頭部に装備されている4枚のフィンにより精密誘導される仕組みだ。DF-21Dには核弾頭も搭載できるが、約1,000個の子弾を搭載し、広範囲に拡散した子弾により空母甲板上の航空機、電子機器および艦橋などの上部構造物を損傷させるという非常に厄介なミサイルである。

また、DF-26の形状についてはDF-21Dとほぼ同サイズであるが、射程は約4,000kmと言われている。誘導はDF-21D同様にMaRV方式であり、弾頭にフィンが装備されており精密誘導される構造となっている。米国防総省は2020年の議会への年次報告において、中国がDF-26を更に増強すると見積もっている。2020年1月、米国科学者連盟(FAS:Federation of American Scientists)の核問題専門家ハンス・クリステンセン氏が商業向け人工衛星の写真の中に、中国山東省青洲市南部のミサイル基地内で多数のDF-26のTELが存在するという映像を発見し、ブログに公表している。これらのDF-26は韓国、日本を射程圏内に収めるものだ。

一方、9月8日の報道によると、日本政府も中期防衛力整備計画に基づく処置として、2022年までにノルウェーのコングスベルグ社製のJSM(Joint Strike Missile)(射程500km)を島嶼防衛用として取得し、F-35Aに搭載するという計画が明らかになった。JSMは、スタンドオフミサイルであり相手の防空システムの有効射程圏外から発射され、亜音速ではあるが超低空からステレス性能を発揮し、目標に誘導される構造だ。さらに、開発中であるが、近い将来、F-15用として、ロッキードマーチン社製のLRASM(Long Range Anti-Surface Missile:射程900km)やレイセオン社製のJASSM(Joint Air-to-Surface Stand-off Missile:射程900km)が導入される計画である。

2019年10月、米海軍は、沿岸海域戦闘艦(LCS:Littoral Combat Ship)「ガブリエル・ギフォース」がグアム島沖で新型の対艦巡航ミサイル「ネイバル・ストライク(NSM)(射程160km)」の発射実験に成功したと発表した。NSMは海面すれすれの低空を飛行するため、敵のレーダー網や防空網での探知することが困難だという。LCSは沿岸部および島嶼の浅海域での作戦遂行を想定しているが、「米国上院軍事委員会の公聴会でNMSが標準装備となるLCSを30隻まで増強する計画が公表された」と報道された。

実業之日本フォーラム編集部

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