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2020.09.14 安全保障

対外債務負担から経常赤字構造が続く南アフリカ

中村 孝也

S&Pは2020年1~7月に7件のソブリン格付けを引き下げたが、そのうちの一つが南アフリカである。4月29日、南アフリカ共和国の長期外貨建て債務格付けはBBからBB-に引き下げられた。新興国の中で南アフリカは対外債務の自国通貨建ての割合が相対的に高いというのが救いであるものの、それでも経常収支の赤字構造から脱出できない状況が続いている。

南アフリカの貿易収支は、赤字と黒字を行ったり来たりする状況が続いており、過去10年間平均で3.6億ドル/年の黒字である。一方、経常収支は同86億ドル/年の赤字である。サービス収支、第一次所得収支、第二次所得収支はいずれも赤字だが、中でも第一次所得収支の赤字拡大が大きい。南アフリカの対外債務は1,556億ドルであり、過去20年ほどで大幅に増加した。そのうち、政府長期債務が1/3程度を占めており、こうした負債からくる利払いが資金流出につながっており、経常収支の悪化に影響している。

過去10年間で直接投資は1.1億ドル/年の純流入であったのに対して、証券投資は111億ドル/年の純流入であった。経常収支の赤字は証券投資によってファイナンスされているが、証券投資による資金流入でまかなっているために、経常収支の赤字構造から抜け出せない状況が続いている。

なお、インドやインドネシアの外貨準備高は過去20年で約4倍に増加したが、南アフリカの外貨準備の増加は相対的には限られる。1990年代後半のアジア通貨危機の際には、為替市場で直先スワップ取引により、外貨準備の大幅な減少を回避しながらランドの防衛が実施されたが、先物の売りポジションは膨れ上がり、残高は外貨準備高を上回った。2000年以降は先物を利用した為替防衛は回避されるようになり、基本的には市場実勢に委ねられるようになっている。

(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。