日本が歩むグローバル金融センターへの道(1)香港の導管性

2020.09.11

「グローバル金融センターとしての従来の香港の機能を日本が代替したい」という議論が浮上しているが、その可能性を検証してみよう。金融センターは、一般的に「国内金融センター」と「クロスボーダー取引のハブ」の2つに大別される。「国内金融センター」は、自国産業の金融機能の集積地であり、「クロスボーダー取引のハブ」は、国際的な金融や物流の中心地ということだ。この戦略が目指すものは、日本経済の「国内金融センター」であった東京が、香港の「クロスボーダー取引のハブ」機能の獲得を目指すということだろう。香港は、中国という後背地における「国内金融センター」という大きな役割もあるが、これは日本が代替する対象にはならないだろう。一方、「クロスボーダー取引のハブ」には「導管性」と「透明な法体系」が求められるはずだ。

香港は「導管性」を備えた地域である。金融の世界に詳しい方々にとっては「パススルー(導管体)の国及び地域版」と言うほうが、理解しやすいかもしれない。「導管性」とは、金融商品を保有する最終投資家が納税を行い、金融商品を組成するために存在する中間ビークル(特定目的会社等)には一切課税をしないということを指す(二重課税の回避)。導管性を備えた代表的な例としてREIT(不動産投資信託)が挙げられる。REITは、原資産となる不動産が生み出すキャッシュフローを切り分けて金融商品を組成する仕組みである。その目的のために作られたビークルが原資産を取得して、そのビークルの負債と資本を分割したうえで、資本部分を細かく分割した金融商品にすることで、不動産投資を小口で投資したい投資家のニーズに応えるというものである。このビーグルに法人税が課せられると、組成された金融商品の利回りが低下してしまうため、金融商品としての魅力を失い、機能しなくなる。そのため、「導管」では一切の課税を行わない。

このように対象資産を再構成して、売り手と買い手のニーズをマッチさせる(原資産のリスクリターンを自由に切り分ける、小口化する、ポートフォリオによるリスク低減などの技術が介在する)という仕組みは、ここ数十年のグローバル金融の飛躍的発達を促し、現在の金融業界では広く一般的に使われている。道管に使われるビークルの多くは、その目的からタックスヘイブン(租税回避地)に設立されるが、資産や資金を安心して経由させることが重要なため、透明性があり、法の安定が約束されている国や地域のタックスヘイブンに、資産が集中する結果となっている。導管として機能するという実績が、さらに資金を呼び込むという面もあるのだろう。

タックスヘイブンは、一般に(1)非居住者に対する無課税、または無に近い課税、(2)厳しい秘密保持条項と匿名性、(3)簡単・迅速・柔軟な法人設立規則、を満たす国とされる。課税の面からは、無税国、低税率国、国外源泉所得非課税国、租税特典国(持株会社などに対する)の4つに分けられる。グローバル金融市場にとって、健全なタックスヘイブンの存在は欠かせない。

一方、タックスヘイブンにとって、莫大なグローバル資金の流入は地元経済を潤す存在である。タックスヘイブンについて明確な統計は存在しないが、1994年にIMFは国際的な金融の流れの約半分がタックスヘイブンを通過しているという調査報告を公表しており、ロナン・パランらによる「タックスヘイブン」は多国籍企業の海外投資の流れの約30%から3分の1ぐらいが一貫してタックスヘイブンに向かっていることを指摘している。オフショア資産については、ジェームズ・ヘンリーは21~32兆ドル(2010年)、ガブリエル・ズックマンは7.5兆ドル(2012年、2016年には推計値を8.7兆ドルに改訂された)、オックスファムは18.5兆ドル(2013年)と推計している。

日本国内においての「導管」は、信託をはじめ、TMK(特定目的会社)や投資事業協同組合などがあり、ここ数十年で法整備が進められ、日本の金融市場の発展に寄与してきた。ただし、国内の法人課税との緊張関係から、海外との資本取引には制約があり、日本における「導管」は国内向けという感が否めない。

タックスヘイブンという言葉には怪しいイメージが付きまといがちである。2016年のパナマ文書事件によって「タックスヘイブンは脱税の温床」というイメージが強化された。事実、過去にはあらゆる不正資金が入り込んできており、悪の巣窟という一面を持っていた。しかし、最近はマネーロンダリング防止や犯罪資金の排除が厳格になってきており、多くのタックスヘイブンが健全化されていると考えられる。

(株式会社フィスコ 中村孝也)


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