アメリカにおけるロビー活動、韓国の評価

2020.09.11

アメリカにおける各国のロビー活動に関するデータに基づいて、オープン・シークレッツ(Open Secrets)が公表したところによれば、韓国の2016年から2019年の間のロビー活動への支出額上位5主体には、韓国政府、韓国対外経済政策研究院、韓国国際貿易協会が含まれている。しかし、その順位には変動があり、その他の主体も入れ替わりがある。支出額が増加した2017年は、1位の韓国政府の支出が5,198万ドルと突出しており、韓国対外経済政策研究院と韓国国際貿易協会がそれぞれ、233万ドル、123万ドルで3位と4位に位置している。2018年の韓国の支出総額は対前年比で40%以上も減少しているが、3主体の順位が同じであることを考慮すれば、この間のロビー活動のターゲットが、2018年に行われた米韓FTA改定交渉を中心とする貿易関連であったことは間違いないだろう。

改定交渉は1月に開始されたが、3月には交渉が妥結し、9月には署名されるという短期間での合意成立となった。このことは、2017年から2018年にかけて行われたロビー活動が、肯定的に作用したと理解することができる。しかし、日本貿易振興機構(JETRO)の分析によると、改定内容は必ずしも韓国に有利なものではないようだ。JETROのレポートによれば、韓国の2011年から2015年の間の対米貿易黒字増加分の主体は自動車であり、2位の自動車部品と合わせると増加分の68.4%を占める。韓国の対米貿易黒字は2016年から減少に転じているが、2018年においても対米貿易黒字の85.1%が自動車であり、その占有率は突出している。

この自動車がFTA改定交渉の焦点となり、アメリカは、韓国からの貨物自動車に対する関税撤廃時期を2021年から2041年に延期することとなった。一方、韓国は、アメリカ連邦自動車安全基準を満たした車両は韓国自動車安全基準を充足したとみなすという規定の適用を、メーカー別に年間2万5,000台まで認めていたが、改定後には5万台に倍増することとなった。韓国の研究機関は、現在のアメリカへの貨物自動車の輸出状況や、韓国へのメーカー別輸入状況などを根拠として、FTA改定の影響は軽微ないし皆無と評価しているものの、改定内容が韓国に不利なものであることは認めている。

米韓FTA改定交渉とは直接関係はないものの、これと並行して行われた韓国産鉄鋼に関する交渉でも韓国側の譲歩があった。1962年通商拡大法第232条に基づいて25%の追加関税をちらつかせるアメリカに対して、韓国はその対象から除外させる代わりにアメリカへの輸出数量枠を設定することで合意した。これによって、韓国産鉄鋼材の対米輸出は、2015年から2017年の平均輸出量である383万トンの70%に相当する268万トンに制限されることになった。JETROのレポートによれば、2018年5月から運用が開始された結果、2018年の鉄鋼の対米輸出量は前年比24.8%の減少となり、輸出量のピークだった2014年に比べると52.1%も減少したという。

こうした結果だけをみれば、2017年から2018年にかけて韓国が行った貿易分野に対するロビー活動が、アメリカの政策を韓国の国益につながるように誘導したとは言い切れない。ロビー活動への支出額の増加を合わせて考えれば、その効果はさらに低く評価されることになるだろう。そもそも、2012年に成立した米韓FTAには、サービス市場の開放がネガティブリスト方式になっていることや、一旦開放した市場への規制再強化を禁じるラチェット条項など、いわゆる「毒素条項」と呼ばれる韓国にとって不利な内容が含まれているという指摘もある。改定米韓FTAが韓国にとって更なる改悪だとの主張にも、ある程度の説得力がある。ロビー活動への累積支出額の多さが強調される韓国だが、ロビー活動の成果についての評価には留保が伴うだろう。



サンタフェ総研上席研究員 米内 修 
防衛大学校卒業後、陸上自衛官として勤務。在職間、防衛大学校総合安全保障研究科後期課程を卒業し、独立行政法人大学評価・学位授与機構から博士号(安全保障学)を取得。2020年から現職。主な関心は、国際政治学、国際関係論、国際制度論。


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