実業之日本フォーラム 実業之日本フォーラム
2020.09.11 安全保障

アメリカにおけるロビー活動、支出額の評価

米内 修

超大国アメリカの政策は、様々な分野で世界に影響を及ぼしている。安全保障面では北大西洋条約機構(NATO)をはじめとする多くの同盟関係を構築し、世界中に同盟国を持っている。貿易に関連した分野では、アメリカ・メキシコ・カナダ協定(USMCA)や中米5か国・ドミニカ共和国との自由貿易協定(CAFTA-DR)といった多国間の自由貿易協定(FTA)に加え、2020年8月時点で13の国と二国間のFTAを締結し、3つの国と地域とのFTAが交渉中である。もちろん、こうした枠組み以外でアメリカと経済的な取引を行っている国も数多い。教育・研究に関しても世界最高水準の大学や機関によって、数多くの分野で世界をリードしている。

こうしたアメリカとの関係から利益を得ている国や企業、教育研究機関などが、それぞれの利益につながる政策をアメリカに求めるのは当然のことであり、その実現のために積極的に取り組まれているものの1つがロビー活動だ。アメリカでは海外の主体がロビー活動を行う場合、外国代理人登録法(Foreign Agent Registration Act: FARA)に基づいて、ロビー活動の依頼主体や代理人の登録、活動内容の司法省(DOJ)への報告などが義務付けられている。DOJから提供されたデータに基づきオープン・シークレッツ(Open Secrets)が公表した内容に基づけば、2016年から2020年6月までの間にアメリカでロビー活動を行った主体は537、ロビー活動への累積支出額は21億6,624万ドルに上る。

この期間の累積支出額が最も多かった国は韓国であり、日本、イスラエルがこれに続く。いずれもアメリカとの同盟関係を中心とした密接な関係にあり、アメリカの政策の動向に強い関心を持つ国々だ。これら上位3か国の累積支出額合計は4億5,547万ドルであり、総額の21%を占める。アメリカの政策動向への関心の強さと、ロビー活動への支出額に一定の相関があることを裏付ける形になっているが、それぞれの内容を見てみるとロビー活動の傾向に差異があることが確認される。

上位3か国の、2016年から2019年の各年のロビー活動への支出額の推移をみると、韓国は2017年に6,352万ドルと対前年比で47.4%増加しているが、2018年、2019年はそれぞれ対前年比-42.7%、-33.4%と大きく落ち込むなど、変動幅が大きい。これに対して、この間で日本の支出が最も多かったのは2017年の4,536万ドルで、2017年から2019年までの対前年比増減率は、6.9%増、34.7%減、29.8%増と韓国に比較して変動幅が小さい。イスラエルの対前年比増減率は、259.4%増、62.6%増、38.0%減と変動幅は3か国の中で最も大きく、最大支出は2018年の4,911万ドルだった。

韓国のロビー活動への支出が大きく増加した2017年は、トランプ大統領が米韓FTAへの不満を表明し、米韓首脳会議で見直しが議題にされたのち、改定交渉開始が合意されている。日本の支出が比較的多かったのは、アメリカ大統領選挙があった2016年とトランプ政権が発足した2017年、貿易協定交渉があった2019年である。イスラエルは、2017年から2018年にかけてロビー活動への支出を増加させているが、2018年にはアメリカのイラン核合意からの離脱、アメリカ大使館移転、アメリカのイスラエルに対するゴラン高原主権承認などがあった。

こうしてみると、これら3か国がアメリカの政策を自国の国益につながるように誘導するために、新たに発生した重要課題や以前から継続して取り組んでいる問題に対して、ロビー活動を活発化させていることがよくわかる。一方、Open Secretsのデータにもあるように、ロビー活動には政治家に対して直接行われるものもあれば、ジャーナリストや研究機関による書籍、記事、論説の発表なども含まれる。アメリカの政策を誘導するために、あらゆる資源を使うのがロビー活動なのである。したがって、ロビー活動に対する評価は、支出額だけではなく、その結果として現れるアメリカの政策内容をあわせて評価する必要があるだろう。



サンタフェ総研上席研究員 米内 修
防衛大学校卒業後、陸上自衛官として勤務。在職間、防衛大学校総合安全保障研究科後期課程を卒業し、独立行政法人大学評価・学位授与機構から博士号(安全保障学)を取得。2020年から現職。主な関心は、国際政治学、国際関係論、国際制度論。

米内 修

実業之日本フォーラム 編集委員
防衛大学校卒業後、陸上自衛官として勤務。在職間、防衛大学校総合安全保障研究科後期課程を卒業し、独立行政法人大学評価・学位授与機構から博士号(安全保障学)を取得。2021年から現職。主な関心は、国際政治学、国際関係論、国際制度論。

著者の記事