ウォーゲームが解消する男女間の格差

2020.09.03

「北朝鮮は、アメリカ西海岸を射程に収める長距離ミサイルを開発した。これに対してアメリカは、『重大な結果』をもたらすという北朝鮮の脅しにもかかわらず、韓国との大規模な軍事演習を再開した。軍事演習へ参加するアメリカ軍が到着し始めたとき、北朝鮮がソウル一帯に対して一斉射撃を開始し、韓国はミサイルで応戦し始めた。米韓両国及び北朝鮮は、戦時動員を開始した。」

何とも物々しい内容だが、これは現実ではなく、昨年8月にランド研究所において行われたウォーゲームで使用されたシナリオの一部である。ウォーゲームといえば、過去の戦例などをモチーフとして作られ、様々な形態で楽しむことができる一般的なゲームを想像される方も多いだろう。これらの多くは、敵と味方に分かれ、ゲームの複雑さに応じて定められた様々な手段を用いて目的の達成を目指すものになっている。もちろん、多くのゲームでは軍事力がその手段に含まれる。ゲームの中とはいえ、相手を倒して目的を達成したほうが勝者となる。しかし、ランド研究所が行っているのはこれとはかなり違うものだ。

ランド研究所のコミュニケーション・アナリストであるダグ・アーヴィングが、昨年8月に発表したエッセイの中で触れているように、研究所が研究の一環としてウォーゲームに取り組み始めたのは冷戦初期のころだとされる。ゲームが対象とする分野は、軍事作戦といった狭隘なものに限定されるのではなく、核に関連するセキュリティから健康保険に至るまで極めて幅広い。ゲームで使用される各種ツールも取り組むテーマに応じてカスタマイズされたものになり、研究目的を達成するために用意されるシナリオも千差万別である。

アメリカやイギリスをはじめとする先進国の政府や研究機関などでは、ウォーゲームが様々な問題の分析や解決のための有力な手法の1つであることは広く認知されている。特に軍事的な分野では作戦や戦闘の計画を立案する際に、状況の推移を予測して対応策を具体化するための手法として戦闘シミュレーションが広く行われており、そのノウハウが現代のウォーゲームにも取り入れられている。政府や軍の関係者、研究機関などからの参加者が、1つのシナリオを対象として協力しながら取り組むウォーゲームも数多く行われている。

ウォーゲームでは軍事に関連するものが比較的多いこともあり、参加者の多くが男性であることは珍しくないが、冒頭で紹介したシナリオに取り組んだのは、10代から20代前半の14名の女性であった。彼女たちは、「国家安全保障における女性のためのリーダーシップ評議会(the Leadership Council for Women in National Security)」の募集に応じた者たちで、軍の経験はもっていないという。この取り組みに協力したローレン・ブイタは、10年以上国家安全保障の専門家及び編集者として活躍し、2016年に”Girl Security”という組織を設立した。この組織は、若い女性への教育、訓練、メンタルサポートなどを通じて国家安全保障分野における男女格差を是正する目的を持ち、ブイタは若い学生をランド研究所のアナリストに紹介する取り組みを行っている。

アーヴィングの指摘によると、国務省の上級幹部職では3分の1が女性だが、国防総省の高官リストに載っている女性は5分の1以下だという。彼女たちが政府の最高給与等級に上り詰めたり、情報機関で上級職に就いたりする可能性は男性よりも低く、議会の外交政策や国家安全保障を監督する10の委員会のうち、女性が議長を務めているのは1つだけに過ぎない。アメリカにおいてでさえ、これらの分野では依然として男女格差が強く残っている。

軍における戦闘行動では、男女格差に一定の合理性が認められるものの、その他の安全保障分野では男女間の格差是正は有益であり必要でもある。そのための取り組みの一環として、ウォーゲームは有効な手段となり得るだろう。なぜなら、ウォーゲームは単なる戦闘シミュレーションではなく、それを通じた分析や研究が主たる目的であり、結果そのものよりもそれに至った要因等を明らかにするアフター・アクション・レビュー(AAR)が重視されるものだからだ。具体的な行動では影響する可能性がある男女間の格差は、このゲームの中では全く発生しない。

今回のウォーゲームでは、紛争は急速にエスカレートして米韓軍も北朝鮮軍も大きな損害を被る結果となり、ステイシー・ペティジョン上級政治研究員の評価では、最終状況は「良くない(not good)」だった。それでも、全く経験のない彼女たちがゲームの中で考え、議論し、導いた決断は1つの政策決定そのものであり、専門家では気づかない若い女性ならではの新たな視点を得るきっかけにもなり得る。たとえゲームの結果が最悪の結果だったとしても、AARでその原因を突き止めることができれば、現実の政策判断に反映させればいい。

アーヴィングが指摘するように、国家安全保障においては、すべての悪いオプションの中から最悪の事態をより早く見つけ出すことが求められる。このゲームは、彼女たちにそうした安全保障の難しさに加えて、日々のニュースの背後にある厳しい現実を直視させ、戦略のみならず敏捷性と弾力性が必要だということを教えただろう。ウォーゲームには、ここで述べただけではなく多くの有効性がある。国家安全保障に限らず、様々な問題に対する政策を立案するうえで、ウォーゲームが分析範囲を拡大し問題点を明確にする可能性は大きいといえる。



サンタフェ総研上席研究員 米内 修
防衛大学校卒業後、陸上自衛官として勤務。在職間、防衛大学校総合安全保障研究科後期課程を卒業し、独立行政法人大学評価・学位授与機構から博士号(安全保障学)を取得。2020年から現職。主な関心は、国際政治学、国際関係論、国際制度論。


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