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2020.08.21 安全保障

「情報革命」に続く「価値革命」で注目されるDeFi

中村 孝也

書籍『ポストコロナの米中覇権とデジタル人民元』では米中覇権のカギを握る「ドルvs人民元」のデジタル通貨戦争が展望されているが、その中では「デジタル経済化」という今後の世界的潮流も議論されている。インターネットの普及で生じた「情報革命」に続くものが「価値革命」である。

インターネットに分散・分権された台帳とスマートコントラクトにより、エージェンシーコストとカウンターパーティリスクが消滅し、金融における価値交換のコストの劇的な低下が、価値交換が可能な範囲を極限まで広げる。インターネット革命で情報産業は大きく生まれ変わったが、今般の革命では経済の血液である金融が大きく生まれ変わり、経済のあり方そのものを変えていく。当然、5G、AI、ブロックチェーン、量子コンピューティング、バイオテクノロジーなどの技術も相まってデジタル化を加速させるだろう。

より大きな経済がデジタルマーケットに立脚することになれば、法定通貨の比重が低下する一方、デジタル通貨の比重が拡大していくという結論が得られるだろう。ブロックチェーンの規模は「世界GDPの10%程度」というのが一つの定見となっている。中央銀行の法定通貨であるナローマネーと、非中央集権的で通貨に近い性質を有する金(ゴールド)などを合算すると44兆ドル規模となる。こういった非デジタル通貨で80兆ドルの世界GDPを支えているのだとすると、ブロックチェーン上に保管されていく8兆ドルの世界GDPを支えるためには4.4兆ドルのデジタル通貨が必要と試算される。そして、実体経済を従来の金融市場が支えているのと同様に、デジタル経済を支えるための暗号資産金融市場も本格的に立ち上がる。上記の比率を当てはめれば、暗号資産建て金融商品の時価総額は85.7兆ドルに達することになる。

「85.7兆ドルの暗号資産建て金融商品」というのは現時点では現実離れしているように見えるかもしれないが、その黎明期を感じさせるのが最近のDeFi(Decentralized Finance、分散型金融)である。DeFiとは、証券、保険、デリバティブ、レンディングなどの金融分野において、ブロックチェーンを活用したアプリケーションによって構成される金融システムを指す。2020年年央以降、指数関数的な拡大を遂げており、Defipulseによると65.5億ドルの資産がロックされている。日本でDefiを実装するのは現時点では容易ではないが、デジタル経済の本格化を前に、Dapps的あるいはDefi的な要素を取り込むことはもはや不可避と思われる。手前みそであるが、国内におけるその取り組みの一端は「FISCO Decentralized Application Platform 設計概要書」にある。



(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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