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2020.08.17 安全保障

脆弱性が高い新興国は?

中村 孝也

IMFのレポート「EXTERNAL SECTOR REPORT: Global Imbalances and the COVID-19 Crisis」では、世界の対外収支を分析している。新型コロナウイルス(COVID19)によるパンデミックは、世界貿易の急激な減少、商品価格の下落、外部資金調達条件の引き締めを引き起こした。経常収支と通貨への影響は、国によって大きく異なる。2019年の世界の経常収支(経常収支の絶対値の合計額)は、世界GDP比で2.9%と、前年から0.2ポイント低下した。2019年の対外収支は、パンデミック直前の持続的な脆弱性と残された政策課題を暗示している。石油、観光、送金に依存していた経済にとっては危機の影響は特に深刻であり、GDPの2%を上回る悪影響が経常収支に加わると予想されることから、大幅な経済調整が必要になる。パンデミックは想定よりも長引く可能性があり、リスクとしてはパンデミックの第二波と、それに伴う貿易、商品価格、観光、送金への影響が挙げられる。

近年、米国の経常赤字と、中国の経常黒字で一定のバランスが保たれてきたが、コロナショックは対外不均衡を縮小させる方向に作用するだろう。経常黒字を拡大させようとしていた新興国にも逆風となる。

過去を見てみると、海外でストレスが高まる局面の前には、対外純債務の拡大、外貨建て借り入れの増加により、レバレッジが高まっていた。それはその後、反転を余儀なくされた。対外ストレスの上昇後は、産出量が減少し、為替レートが下落し、経常収支が調整される傾向が見られたが、新興国の方が変動が大きく、その反動も相対的に大きかった。世界的な金融ストレスの高まりは、既存の脆弱性を持つ経済において、債務不履行、債務再編、あるいはIMFによるより多くの金融支援の必要性を増大させる可能性を示唆している。

「短期対外債務+経常赤字」が高く、「外貨準備高」が低い国々の脆弱性が高いと判断されている。一方、海外からの資金が一気に流出に転じてしまうような局面を想定すると、外貨準備だけでは賄いきれず、ほぼすべての国が無傷では済まなさそうである。世界的な金融情勢が再び引き締まれば、新興市場や発展途上国では資本の反転や通貨圧力が生じ、既存の経済状況に基づいて、経済のパフォーマンスに差異が生じる可能性がある。例えば、レポートで取り上げられている新興国のうち、経常赤字が見込まれる対外純債務国としては、ブラジル、インド、インドネシア、メキシコが該当する。



(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。

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