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2020.07.30 安全保障

米国政府の中国企業への規制措置と日本への影響

中村 孝也

米国政府は、2020年8月13日より国防権限法を実施し、安全保障上の理由から中国企業5社の製品を使う企業が米国政府と取引することを禁止する。米国政府と取引する企業は、該当企業の製品やサービスを使っていないとの証明書を出す必要がある。日本経済新聞社によると、米国政府と日本企業との取引規模は2018年10月~2019年9月の会計年度で800社以上、15億ドル(約1,600億円)程度ある。

規制対象としている中国企業5社とは、HUAWEI(華為技術)、ZTE(中興通訊)、HIKVISION(杭州海康威視数字技術)、Dahua Technology(浙江大華技術)、Hytera(海能達通信)であり、基地局、サーバ、監視カメラ、タブレット端末、スマートフォン等といったシステム関連の納品が規制されると想定される。これらの基地局やサーバ、スマートフォン、タブレット端末などで共通のキーパーツとなるのが、半導体(IC)である。共通している点は、次世代通信規格・5Gの設備投資が見込まれる分野であり、5Gを巡る米中覇権争いとみることができる。

米国政府による規制の影響は、米国政府が中国5社との取引を停止することによる直接的なものと、米国政府と取引のある企業との取引停止による間接的なものがある。日本への直接的な影響としては、米国政府と日本企業との取引規模に対応する約1,600億円が最大の影響額となろう。また、即時的なリスクではないだろうが、仮に規制発動と合わせて日本企業の中国市場での取引自粛を米国政府が要請して来た場合、最悪のケースとしては中国市場の取引そのものを喪失するという事態も想定されよう。非常に粗い試算であるが、最大での間接影響は、半導体で約7,000億円、半導体製造装置で約4,700億円と見込まれる。

日本はメモリでNANDフラッシュのキオクシアが大手であるが、それ以外には大きなプレイヤーが存在しない。半導体製造装置のうちいくつかの分野では日本が主要プレイヤーであるため、米国政府による規制は無視できないだろう。ただ、米国政府と取引がなく、米国技術や米国の製造装置を使用していない限りは、規制対象とはならないため、水面下では供給が継続される可能性も高そうだ。そうであれば、日本にとっては表立って大きな影響はない。



(株式会社フィスコ 中村孝也)

中村 孝也

株式会社フィスコ 代表取締役社長
日興證券(現SMBC日興証券)より2000年にフィスコへ。現在、フィスコの情報配信サービス事業の担当取締役として、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議を主導する立場にあり、アメリカ、中国、韓国、デジタル経済、暗号資産(仮想通貨)などの調査、情報発信を行った。フィスコ仮想通貨取引所の親会社であるフィスコデジタルアセットグループの取締役でもある。なお、フィスコ金融・経済シナリオ分析会議から出た著書は「中国経済崩壊のシナリオ」「【ザ・キャズム】今、ビットコインを買う理由」など。