サイバー空間におけるデータ・ガバナンス:第四次産業革命センターが目指したもの(須賀千鶴、前・一般社団法人世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター初代センター長との対談)(1)

2021.10.07

サイバー空間におけるデータ・ガバナンス:第四次産業革命センターが目指したもの(須賀千鶴、前・一般社団法人世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター初代センター長との対談)(1)

ゲスト

須賀千鶴(前・世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター長)

2003年に経済産業省に入省。2016年より「経産省次官・若手プロジェクト」に参画し、150万DLを記録した「不安な個人、立ちすくむ国家」を発表。2017年より商務・サービスグループ政策企画委員として、提言にあわせて新設された部局にて教育改革等に携わる。2018年7月より、デジタル時代のイノベーションと法、社会のあり方を検討し、グローバルなルールメイキングに貢献するため、世界経済フォーラム、経済産業省、アジア・パシフィック・イニシアティブによるJV組織の初代センター長に就任。国際機関のネットワークを活用しながら、データガバナンス、ヘルスケア、スマートシティ、モビリティ、アジャイルガバナンスなど多様な国際プロジェクトを率いる。2021年7月より経済産業省 商務情報政策局 情報経済課長。

聞き手

白井一成(株式会社実業之日本社社主、社会福祉法人善光会創設者、事業家・投資家)

白井:須賀さん、本日はお忙しいなか、「実業之日本フォーラム」の連続対談にご出席いただき、ありがとうございます。

須賀さんは現在(編集部注:対談は2021年6月に行われた)、「世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター」の初代センター長でいらっしゃいます。このセンターは、2018年7月に、世界経済フォーラム、経済産業省、一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブの連携によって設立されました。日本センターは、米国サンフランシスコに本拠点を置く「世界経済フォーラム第四次産業革命センター」が海外に展開した初のグローバル拠点と伺っております。

須賀:白井さん、こちらこそ、本日はどうぞよろしくお願いいたします。

第四次産業革命センターは、政府、企業、市民社会、専門家との連携を通じ、進化するテクノロジーを統御し、社会課題を解決するために必要なルールづくりと実証を推進しています。

テクノロジーを日常生活へ継ぎ目なく融合させ、その利益を私たち一人ひとりが享受する「Society5.0」においては、もはや資本ではなく、データがあらゆるものを結んで、動かします。それゆえ、私たちはデータ・ガバナンスこそ第四次産業革命の最重要課題と位置づけています。

白井:世界経済フォーラムのレポートを拝見しますと、データの取り扱いについて、公益を優先する「中国のモデル」、個人の権利を優先する「欧州のモデル」そして企業の利益を優先する「米国のモデル」があると分類されています。この3つのモデルというのは、今後世界において共存していくのか、あるいは各国の利害を背景に対立していくのか、まずはこのあたりからご意見をお聞かせいただければと思います。

須賀:世界経済フォーラムにおきまして、データ・ガバナンスについてマルチステイクホルダーで議論をする場を設けるべきだと発想した元々の原因は、そこにあります。この3つの大きなモデルを放っておくとどんどん遠心力が働き分断が拡大し、その間で挟まれる者たちにとっては生存そのものさえ非常に困難となる状況が危惧されました。いまは共存しているように見えますが、サイバー空間も深刻な分断に見舞われ、どちらかの経済圏なり影響圏に完全に組み込まれる以外に生きる道が残されなくなることへの危機感や問題意識があったと思っています。このまま放っておくと共存不可能なところにまで分断が進んでいくのではないかということです。

それに対して、それぞれの国や地域の事情を踏まえながら、何らかの価値を代弁するデータ・ガバナンスに基づく経済圏の間でバランスをとろう、非常に繊細な利害調整というものをしていくべきだ、しようじゃないかと声をかける誰かが必要だということで、その役割を果たすべく各地に設置されたのが第四次産業革命センターです。

従いまして、私たちは統合とは少し異なる、少なくとも共存可能な形、全く同じものに皆が従うのではなく、違うものでも「相互運用性」、システムの世界で言う「インターオペラビリティ」というものを目指そうとしました。最低限の共存可能性を担保し、一致しなければならないルールは何か、どこから先はそれぞれが自由にやって大丈夫か、という枠組みを議論していきましょうということを働きかけています。

白井:議論をする場、あるいはそのような文化を作ろうとした、というようなイメージでしょうか。

須賀:そうですね。もちろん競争領域というものは、企業レベルでも国家レベルでも残ります。これがある意味イノベーションの源泉でもあります。完全に一致する、統一するというのは、一見進歩的に見えて、将来の可能性を摘むことにもなります。そうではなくて、少なくとも共有可能なもの、公共財と考えることができるもの、非競争領域として皆で一緒に作ることができるものがデジタルな世界でもあるはずだということです。

そこを一つずつ特定していきましょうというアプローチです。

白井:データの取り扱いに関する3つのモデルを具体的にお教えください。また、具体的には各国の第四次産業革命センターはどのようなコミュニケーションをされているのでしょうか。

須賀:この3つのモデルの違いを分かりやすく言うと次のようになります。企業が主体でデータ・ガバナンスを考えていくというのがアメリカのモデルだとすると、それを国家が主体でリードしていくというのが中国モデル、それらに対して、データを利用する側ではなく、データの発生源である個人の人権というものを重要視し、その範囲内でのみデータを利用すべきだという欧州モデルという整理です。そのような区分で世界を見ていきますと、非常にバラエティーに富んでいます。中東では中国に近い考えをする国もありますし、インドのように非常にテクノロジーが進んだ国でも、一部保守的なルールを入れる国もあります。

そういった差分こそが面白いところであり、実態を反映しているとも言えます。それらを丁寧に見ていきながら、対話を途切れさせないことが重要です。世界経済フォーラムでは、自分とは考え方や価値観が違う人たちを切り離して対話をしないことは建設的ではないと考えています。中立的なプラットフォームとして、違う考えの方のお話は全部聞く、「ボイスを与える」という言い方をしますが、発言の機会を持っていただくということを、気をつけてやっています。

そういう意味で、中国にもセンターがあり、たとえばスマートシティの担当者は中国にも、インドにもいますし、日本にも、コロンビアにもサンフランシスコにもいます。

そういった人たちと毎週議論をするという、非常にユニークな中立的なプラットフォームになっているかなと思います。

白井:地政学、地経学的観点で見ますと、データ・ガバナンスにおいても陣取り合戦が先鋭化しつつあり、対話の必要性が高まっていると感じております。そのような中、世界経済フォーラムの第四次産業革命センターにおいて、各地区のセンター間でデータの取り扱いについて話し合いが行われているということをお聞きして安心しました。軍事面でも危機のエスカレーションを防ぐために、ホットラインを持っておくことは非常に大事なことです。対話や議論の窓が開いているということは極めて重要なことだと思います。

(本文敬称略)


 
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