頭脳資本主義の到来 – 日本は産業構造の大転換を迫られる(井上智洋、駒澤大学経済学部准教授との対談)(4)

2021.09.15

頭脳資本主義の到来 – 日本は産業構造の大転換を迫られる(井上智洋、駒澤大学経済学部准教授との対談)(4)

ゲスト
井上智洋(駒澤大学経済学部准教授)

慶應義塾大学環境情報学部卒業。早稲田大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。2015年4月から現職。博士(経済学)。専門はマクロ経済学、貨幣経済理論、成長理論。主な著書に『人工知能と経済の未来』『ヘリコプターマネー』『人工超知能』『AI時代の新・ベーシックインカム論』などがある。

聞き手
白井一成(株式会社実業之日本社社主、社会福祉法人善光会創設者、事業家・投資家)

白井:米中対立の激化で、アメリカは中国のテック大手を排除しようとしていますが、元々アメリカはオープンに様々な国のサービスを受け入れてきました。一方、中国はアメリカのプラットフォーマーを入れないようにしていました。このような、米中のテック企業の競争環境の非対称性は、いまのところ中国に有利に働いているということですね。

中国は、アント・グループの上場中止など、中央の統制が強くなってきているように感じています。また、中国の人々も物質的な欲求が満たされつつあります。これらはイノベーションを阻害しないでしょうか。アメリカンドリームの魅力はかなり薄れたとは言え、世界中の人々はアメリカでの起業を目指しています。

井上:中国に「今」は貪欲な人が多いですが、時間の経過とともに減っていくだろうと思っています。今年(2021年)、中国で話題になった「寝そべり族」は、寝ているだけで何もしたくない、結婚もしたくないし、可能な限り働く時間も短くしたいという人々の通称です。

これまでの中国は、日本のように労働時間を減らしていこうという方向に全く向いていなくて、むしろ労働者は、もっと働かせてくれ、もっと稼ぎたい、もっとビジネスを展開したい、という意欲に満ちていたのが、ついに中国にも「寝そべり族」のような若者が出てきました。

これはもう、中国が十分に豊かになった証拠でもあるし、もう一つは、中国が、建前上、社会主義でありながらも、大抵の資本主義国以上に資本主義的というか、稼ぐが勝ちみたいな世界であり、そうした競争に疲れた若者が出てきたと証だと思います。競争から降りてしまうという若者が中国でも増えているということは、中国の社会が成熟していくに連れて、そこまで貪欲な、ハングリー精神みたいなのを今以上には持たなくなるのではないか。

対して、アメリカは、発展途上国からシリコンバレーを目指して、若い、貪欲な人たちが来るという構造を持っています。これこそが、シリコンバレーを含む、アメリカの経済を活性化させているのだと思います。

アメリカの強みは「自由」、すなわち、オープンネスです。開かれているということが、アメリカの確かな強みだと私は思っています。

ただ、中国共産党政府自体は、イノベーションを活発化しようと思っているものの、時々、自由な経済活動の妨害もすると思っていて、この点は中国のこれからの経済発展にマイナスに働くと思います。

でも、それを補って余りあるぐらい、中国政府自体が巨大なベンチャー企業であるかのように振る舞っているので、結局、アメリカと中国を比べたときに、どちらが、どれくらい優位なのかは、一概には評価が難しいです。

でも、私が強調しておきたいのは、私たちが思っているよりも、中国政府の気合いの入り方には本気を感じますし、民間経済活動のダイナミズムも、時々、政府が妨害するにしても、かなり活発であるということです。だからこそ、中国がアメリカを抜いて覇権国家になる可能性が高いと思っています。

もしかしたら、中国は「一帯一路」をテコに、デジタル人民元で中国経済圏を拡大し、中国の影響下にある発展途上国の優秀な人材が中国を目指していくみたいな、そういう仕組みをつくる可能性もあります。例えば、深圳が「中国のシリコンバレー」となり、中国の影響下にある発展途上国の若者が深圳を目指すみたいな。これは、中国がさらに強くなっていくために必要なことですし、必要なことであれば、中国政府はおそらく実現に向けて手を打つだろうなという気がします。

白井:現在、GAFAMなどのグローバルな巨大テック企業に課税する「デジタル税」が2021年7月に130ヵ国で合意しました。また、アメリカ国内では、テック大手の分割論なども議論されています。しかし、米中の地経学的な競争で考えると、それが結果的に西側陣営の競争力を削ぐことにならないのかと心配しています。

井上:私も以前から同様の問題意識を持っています。AT&Tという電話の会社がありますが、AT&Tに独占禁止法を適用したのは、アメリカの経済にとって、そうすることが大して不利益ではなく、むしろ、分割することが利益になるからと判断しからだと思います。

同様に、GAFAMのような巨大テック企業を分割するのかしないのか。

恐らく、今まで彼らが野放しにされていたのは、アメリカの経済にとって利益になるからですよね。今のタイミングで分割してしまうと、例えば、中国のIT企業との対決に負けてしまうのではないかと危惧される。また、富の集中を妨げるからと分割すればするほど、ユーザーは不便になるわけです。富が集中していればいるほどネットワーク外部性が働き、サービスの利便性は増すので、さらにお金儲けが可能になる。この二律背反を解くのはかなり難しいと思います。

ただ、税金を課すことでそれほど競争力が弱まるとは、私は思いません。

税金を課すことが、今は難しい状況にあるとはいえ、グローバルな枠組みを設けて、なるべく税金を課したほうがいいと思います。

分割は、かなり厳しいと思います。グーグルならGmailとか検索エンジンとかを分割してしまうと利便性が下がり、競争力が落ちて、グーグルの地位が低下するはずです。それがアメリカにとっていいかというと、あまりよくない気がします。

以上により、分割ではなく、税金を課す方向で頑張ったほうがいいのではないしょうか。

白井:それでは、仮に将来デジタル金融分野においてもアメリカ企業が日本を席巻した場合、日本には次世代プラットフォーマーがほとんど存在しなくなります。日本政府は、GAFAMなどのプラットフォーマーから税金を徴収して、国民に配分することになります。しかし、それは日本におけるトランザクション数に対する課税のみであり、デジタルプラットフォーマーの本質的な競争優位であるかき集めたデータやその解析から生まれる様々な利益に対しては、アメリカに存在しているため課税できない可能性があります。私はこのようなデジタルプラットフォームの空洞化を危惧しております。

井上:アメリカの企業が全てのサービスを提供して、日本人はそれを享受するだけというのは、かなり危うさを持っているとは思います。これは安全保障上の問題でもあると思いまます。

今までは、プラットフォームを提供するのは国家だったのが、巨大テックに代表されるプラットフォーマーがプラットフォームを提供するようになり、企業が国家のかわりを果たすということが起きています。

日本人であるにもかかわらず、日本国家とか、日本企業が提供するプラットフォームではなく、アメリカ企業が提供するプラットフォームに日常生活の基盤があるのですから、極端な話ですけど、アメリカ企業が日本人はもう気に食わないから一切のサービスを提供しないとかされた途端に日常生活に支障をきたすという危険性はありますし、日本という国家がアメリカの企業から税金を十分に取れるかもわかりません。

こうした事態はよろしくないので、国内から第3次、第4次産業革命の勝者になるような企業を育てないといけません。

ソフトバンクみたいに投資中心の企業もでもいいと思いますが、一方でちゃんと実業をやっている企業が育つ土壌を政府が主導して準備すべきと思います。また、日本には、GAFAMのような巨大IT企業がないので、政府が研究開発にある程度の資金を拠出するしかないと思います。

賛否両論あるかもしれないですが、世界中からAIとかの先端技術分野の研究者を高額のオファーでもヘッドハントしてきて、住まいも用意し、週に1回だけ東京大学で授業をしていただく。それ以外の時間は研究していただく。世界中のすばらしい研究者が日本にいるとわかれば、他の発展途上国の若者も日本を目指してくるかもしれません。そして、AIに代表される先端技術を活用した様々なビジネスを起こせるようなエコシステムを生み出す。東京大学の本郷キャンパスが日本のシリコンバレーというか、AIビジネスの中心になっているので、規模は米国と比べると小さいかもしれませんが、そこを起点に巨大なエコシステムができるような仕掛けを政府が主導していくことが必要と思います。

中国が、千人計画とかで、世界中から多額の賃金を払ってすばらしい研究者や大学教員を引き抜いています。日本も同じことをするべきと思っています。中国のやり方は、良くないところもありますが、可能なかぎり日本も取り入れていくべきです。


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