産業革命と金融:AIとブロックチェーンが変える金融(野口悠紀雄氏・白井一成対談)(1)

産業革命と金融:AIとブロックチェーンが変える金融(野口悠紀雄氏・白井一成対談)(1)

ゲスト
野口悠紀雄(一橋大学名誉教授)

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

聞き手
白井一成(株式会社実業之日本社社主、社会福祉法人善光会創設者、事業家・投資家)

白井:野口先生には経済誌の『実業の日本』があった時代に大変お世話になりましたが、残念ながら雑誌を休刊してから20年になりました。実業之日本社の再出発から5年が経ち、今春から経済メディアをまた再び世に送り出すことにいたしました。ただ、以前の『実業の日本』とは趣を変え、大上段から「日本の国益」をしっかり考えるメディアを作ろうという志のもと、紙の媒体ではなくウェブの媒体を中心に言論活動を行うことを企画しています。最初の大きな柱として、わが国を代表する知性の方々と対談させていただき、私たちの問題意識を読者の皆さんと共有させていただくところからスタートしたいと思っていますので、よろしくお願いいたします。

さて、国益を考える上で、金融面、経済面は非常に大きなポイントです。いま、第四次産業革命と時を同じくして金融革命が起こりつつあると感じています。1980 年代以降の IT革命で、インターネットが出てきた時代と、アメリカの金融市場が大きく変化していった時代は符合しています。インターネット革命と言われた時代から、企業のバリュエーションもそれまでのものと変わっていったのではないでしょうか。

1980年代以前は企業の資金調達も保守的に行われておりましたが、2000年頃には事業コンセプトに対して数十億、数百億円での資金調達が行われるようになり、それが事業の進展を早めました。ファイナンス理論が高度化し、リスクベースのプライシングが進展し、お金はさらに流れやすくなった。経済のガソリンとも言えるお金がなだれ込むことがサービスの進展につながりました。世界から瞬時にお金が動くようになり、いまでは数千億、数兆円というバリュエーションでの資金調達も行われるようになっていますが、今後、お金の流れはもっと早くなるのではないかと思っています。まずは「産業革命と金融の関係」からお聞かせください。

野口:IT革命から話を始めましょう。1970年代頃までに作られ、使われていたコンピュータは、大型コンピュータ、つまりメインフレームコンピュータでした。日本はそこでは強かった。銀行のオンライン化が行われましたが、メインフレームコンピュータを使ったものであり、世界最先端の仕組みでした。日本の銀行システムは、メインフレームコンピュータの発展により1970年代に大きく変わりました。

それが、1980年代になると、まずメインフレームがPCになり、分散型になりました。 その後の1990年代には、インターネットという、やはり分散型の通信システムが生まれました。従来のメインフレームコンピュータがPCになったということと、データ回線がインターネットに変わったというのが1980年代から1990年代ごろにかけて起きた変化です。 この2つを合わせたのがIT革命であり、非常に重要な変化です。

金融では、リスクの評価理論であるファイナンス理論として、平均分散モデルなど、経済学の一分野であるファイナンス理論が成長しました。アメリカではデリバティブが誕生し、1980年代、1990年代には証券化などの技術も使われるようになりました。ただし、それは誤用されたと評価しています。その結果、バブルが起こり、2000年代にそれが顕著になり、2008年のリーマンショックにつながりました。

ただし、証券化やデリバティブはファイナンス分野で起きたことであり、インターネットや PCという分散化とは関係はありません。IT革命が起きたにもかかわらず、金融の世界は非効率なままにとどまっていたのではないでしょうか。これは送金、特に国際的な送金において明らかです。国際的な送金のシステムは、いまに至るまで中世から実質的には変わらない仕組みが続いており、非常に非効率です。国際的な送金には時間もかかるしコストもかかる。金融は規制産業であるために、新しい技術を導入できなかった。導入しなくても何とかなったというのが一番大きな理由だと思います。

IT革命、特にインターネットの導入で、情報を移転するコストはほぼゼロになりましたが、金融はさほど変わりませんでした。しかし、第四次産業革命がAI、ブロックチェーンという意味であれば、金融技術の進展とは大きなつながりがあります。

白井:私は以前から野口先生の大ファンで、過去における先生のご主張にいつもインスパイアされてきました。中でも2014年に出版された『仮想通貨革命』には衝撃を受けました。全ての資産がブロックチェーン上で管理されれば、透明性が高まるためエージェントコストは極小化され、配当や金利払いなどの契約行為はスマートコントラクトにより確実に履行されます。400年以上、人類がアップデートしてきた有限責任という仕組みを大きく変える革命的技術です。

投資家の観点でも、投資先や融資先の情報と審査能力の不足や、最低投資単位の問題から与信を十分に行えず、金融機関に相応以上の手数料を払うことによって依存してきた歴史でしたが、ブロックチェーン技術によって、価値を移転させる際に限界費用を限りなくゼロに近づけることができ、最低投資単位も極小化されます。これらはインターネット上での取引であり、いままでの金融市場のように特定の投資家や銀行などが情報や不透明な取引手数料を独占することもできません。経済学で想定されている完全競争市場に金融市場が近づき、またマイクロ投資により全ての市民が平等に投資機会を得ることができる。そのトランザクションもカウンターパーティリスクは存在せず、また瞬時に処理が可能で、金融への影響も大きそうです。先生の本がなければ、仮想通貨革命といいますか、ブロックチェーンが作り出す金融の効率化にも気づかなかったのだろうと痛感しています。

野口:2009年にビットコインという仮想通貨が登場しました。これは、ブロックチェーンという技術を用いたもので、マネーという観点からは非常に大きな変化でした。仮想通貨ができたことで、ほとんどゼロコストで、インターネットでマネーを送ることができるようになりました。

また、2000年代以降から電子マネーが使われるようになりました。中国のアリペイやウ ィチャットペイは電子マネーに取り組み、広く使われるようになりました。中国では、電子マネーが非常に重要な意味を持っています。中国で電子マネーが発達したのは、従来のタイプの金融が発達していなかったからです。銀行システムがほとんどなかったから、電子マネーが広く使われるようになったのです。

アリペイは、最初、eコマースでの支払手段として使われました。インターネットがeコマースを発展させ、それが電子マネーを発展させたのです。そしてAIという技術により、アリペイにおける電子マネーのデータをビッグデータとして使い、信用スコアリングを行うことも可能になりました。

このような変化が起こったのは、アメリカではなく中国です。アメリカでもeコマースは 発展しましたが、その支払いとして使われたのはクレジットカードという古い仕組みです。 アメリカでもクレジットカードを若干進化させたペイパルのようなものは作られました。 これも進歩ではありますが、技術的に大きなブレイクスルーではありません。

白井:金融業が遅れていたからこそ、中国で金融革命が一気に進んだというご指摘は、先生のご著書『リープフロッグ 逆転勝ちの経済学』の中でも強く印象に残りました。

(敬称略)


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